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28 心を穏やかに 【ウイスキー・マック】 ⑤

28-⑤


『富士吉田市』


手紙の住所と電話番号を控えていたため、私たちは携帯電話で中村さんに連絡を取った。

中村さんは、一人暮らしをしているので、いつ来てくれても構いませんよと、

優しい言葉で応待してくれる。

レンタカーについているナビを使い、知らない道を走っていく。


「あらためて思ったのだけれど、啓太って、運転できるのね」

「当たり前だろう。仕事は車で店を回っているから、いつもは乗っているんだ。
ただ、自分で買うのは維持費もかかるし、面倒だしさ」

「ふーん」


職場の近くに啓太の部屋があるため、今まで車を必要としたことがなかった。

こうして慣れている運転技術を見せられると、またそれはそれで新鮮。


「未央は」

「免許?」

「あぁ……」

「身分証明書として、活用しております」

「……なんだ、それ」

「一番いいドライバーなのよ。事故は起こさないし、免許更新で更新料は払うし」

「まぁ、そうだけれど」


平日だということもあり、たいした混雑もないまま『富士吉田市』に入っていく。

『到着まであと20分』という表示がナビの画面に見え、

いよいよだという気持ちになってきた。

啓太のお母さんに会うわけではないのに、妙に緊張する。

それまで結構話をしていた啓太から、ピタリと言葉がなくなった。

啓太の緊張は、私とはくらべものにならないだろう。

私は両手に持ったお土産の包み紙を見ながら、大きく息を吸い込み、吐き出した。





『中村興三』



中村さんの家は、市営住宅だった。

といっても、都会のようなコンクリートの建物ではなく、平屋建ての一軒家になる。

小さな庭がある同じような建物が、敷地内に並んであった。

石で作られた花壇があって、そこには季節の花が咲いている。

手入れなどしていないで、荒れている家もあったが、中村さんの場所は、

きちんと整えられていた。

お花……中村さんが好きなのだろうか、

それとも亡くなったお母さんが好きだったのだろうか。

私が先に車を降り、啓太を誘導する。

他の家の邪魔にならない場所に、レンタカーを止めた。


「ここみたい」

「……うん」


啓太がインターフォンを鳴らすと、すぐに返事があり、

横開きの扉が、ガラガラと音を立てて開いた。


「岡野啓太です」


私は『中谷未央』ですと名乗り、啓太と一緒に頭を下げた。


「中村です、よくいらしてくださった、どうぞ」


私たちは中村さんに頭を下げ、家の中に入った。

中村さんはきれい好きなのか掃除も行き届いていたが、建物は古いようで、

廊下を歩くと、少しきしむ音がする。

通された和室には、コタツが置かれていた。


「どうぞ……」


私たちは並んで座ると、お土産を手渡した。

中村さんはそんなことは必要ないと言っていたが、最終的には受け取ってもらう。


「突然の申し出でしたが、ありがとうございました」

「いえ……」


お茶を出してもらい、コタツを挟んで、私たちと中村さんが向かい合う。

そこからは、実家の農業がうまく行かなくなり、東京に仕事を求めて出てきている中で、

毎日遅くまで働いている啓太のお母さんと出会い、境遇を知り、

助けたいと思った話しをし始めてくれた。

長い話しをしている中村さんの口調は、淡々としていた。

今更、認めて欲しいとか、許して欲しいなどという意味があるとは思えず、

ただ、事実を語り続ける。


「聡子さんは、お店の奥にいたけれど、ご主人に殴られて、
目が腫れている日もあったりしてね。僕は、同じ男として、それが見逃せなかった」


啓太という息子がいたこともわかっていたし、

中村さんは、一緒に逃げてくればいいとお母さんには話したというが、

踏ん切りがつかず、時間だけが流れた。


「もう、この店には来ることが出来なくなるという日、私が彼女を強引に引っ張った。
このチャンスを逃したら、あなたは一生、逃げられないと」


追い込まれ続けたお母さんは、啓太を守るという仕事よりも、

女性として人を愛する道を選んだ。


「あなたには、本当に申し訳ないことをした……」


私は、話しを聞き続けているが、横に座る啓太は、どう思っているだろう。

少なくとも、『捨てられた』という思いは、当時、持っていたはず。


「言いたくないというのではなくて、本当に、今必死に考えても、
記憶があまりないんです。それだけ、追い詰められた生活だったのかなと、
今は思えて……だから、この花で囲まれている家を見たとき、
母は幸せになれたのだろうと、すぐにそう思いました」


小さくても、安心できる場所があること。

啓太のお母さんは、その場所を得ることが出来た。


「死ぬまで、確かに何もしてくれなかった父ですが、だからといって、
父を責めることも、今の俺には出来ません。母を許すとか、憎むとか、
そういう気持ちも……」


お母さんもお父さんももう、この世にいない。

啓太は処理しきれない気持ちを、ただ、記憶として押し込んでいく。


「それでいいです、そんな複雑に考えることはありません。
ただ、私は何度も啓太君に連絡を取ろうと、聡子には言いました。
でも、絶対に許されないからと、あいつは頑なに拒否し続けて」


啓太のそばにいるお父さんに対しての思いもあっただろうと、中村さんは振り返る。


「まぁ、まだ時間もある。もう少し気持ちが落ち着いたらと思っていた日、
職場から連絡がありまして」


啓太のお母さんは、

パートをしていたスーパーの倉庫裏で、倒れていたところを発見されたが、

病院に運んだときには、すでに亡くなっていたという。


「いきなりの出来事に途方にくれていたとき、NPOから連絡がありまして。
聡子が、恵まれない外国の子供に、援助をしていたことを知りました」


発展途上国に生まれ、経済的に余裕がない子供たちを対象にして、

日本の人たちが『里親』のような制度を取り、

お金を援助するという活動があると、中村さんは教えてくれた。

パンフレットを前に出され、啓太はそれを手にとっていく。



『ヌワリ・ケイタ・バヌル』



お母さんが援助をしていた男の子の名前。

そこに『ケイタ』の文字があった。



29-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

28 【ウイスキー・マック】

★カクテル言葉は『心を穏やかに』

材料はスコッチウイスキー 2/3、ジンジャーエール 1/3





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テーマ : 恋愛小説
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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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