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29 感化 【ブラッディ・ブル】 ②

29-②


『ボーッとする時間』


そう言われて見たら、マンションの部屋でも、啓太はソファーに寝転がり、

じっと天井を見つめているときがある。そういうときにはきっと、

疲れているのだろうと、私はあえて声をかけずに黙っているのに、

旅行という特別さが悪いのか、つい、何を考えているのかと聞いてしまった。


「ごめん……そうだよね、そういう時もあるよね」


私は伸ばした脚を、少しだけ動かしてみる。

ふくらはぎを、両手で軽く叩いた。

隣の啓太が、声を抑えて笑っている。


「何? どうして笑うの」

「いや、未央ってさ、何を根拠にと思えるくらい威勢のいい時もあるし、
急にしょぼんとするときもあるし、本当に飽きないな」


啓太はそういうと、私の頬に軽く触れる。


「何も考えていなかったと言うのはウソだな、考えていたよ、本当は。
今まで、どうしてこういう時間を持たなかったのかなと。
どこにいても食事して、一緒にいるだけだから同じだって言っていたけれど、
全く違うなと、あらためて思ったし」

「違う? どんなふうに」

「うん……知らない場所にいると、お互いを自然と頼るだろ。
何かを見つけたら、同じ感覚で感動したり、驚いたり出来るしね」


確かに、ナビを頼りに運転してもらっていたけれど、互いに確認しあったり、

東京と同じお店が、なぜかとても駐車場が広かったりするのを見つけ、

単純に笑ったり、驚いたりした。


「うん……そうだね」

「いつもの空間から少しだけ抜け出せたことが新鮮で、
また、仕事を頑張ろうという気持ちにもなれるなと……」


啓太は、次はどこに行こうかと思いながら、

お湯につかっていたことを教えてくれる。


「そうか……」


ほんの小さなことなのに、私の心はいっぱいになった。

温かいお湯と、啓太の気持ちに、『幸せ』感が倍増する。


「未央……」


啓太の声に横を向くと、唇が触れた。

私は、それと同時に伸びてきた手に気付き、すぐに掴まえる。


「ダメ!」

「……ん?」


あぶない……今の話しに、流されるところだった。


「ん……じゃないでしょう。何しているの」

「何って……」


露天風呂はここだけではない。

耳を澄ましていると、他の人たちの笑い声なども、聞こえるときがある。

姿が見えるわけではないけれど、プライベート空間とも言い切れない。


「そんなことをするために、来たわけではないです」


私は少し小さな声で、啓太の耳元に言葉を届ける。


「でも……マンションの風呂……」


私は、いつもと同じトーンの啓太の口をすぐに塞いだ。


「マンションのお風呂と、ここは違います。今自分が言ったでしょう。
気持ちが変わるって」


不満足そうな啓太の手が、私の脚の間に伸びようとするので、すぐに離れる。


「もう!」


私の怒りに気付いたのか、啓太がおとなしくちょこんと頭を下げ、

またこちらを見る。


「冗談、冗談」


そういうと、この後、ゆっくり飲みたいねと話し、肩を寄せた。





啓太との2泊3日旅行は、本当に充実したものだった。

それほどあちこちを観光したわけではないけれど、

それでも距離がまた近付いた気がして、仕事の中でも時間が空くと、

携帯で旅行のページを見たりすることも増えた。

さすがに年末年始は混みあうだろうから、2月に入ったくらいで、

またどこかに行こうか。


「中谷」

「はい」


編集長から声をかけられ携帯を閉じる。

席を立ち一度大きく背伸びをすると、『何かありましたか』と言いながら前に出た。





さらに季節は過ぎ、街はクリスマスの色を濃くする季節になった。

編集部も年末号を出し終えて、少しのんびり出来るときなのだが、

今年は過去に連載された作品が、来年の春映画化されることが決まり、

そのプロモーションについての話し合いが何度もあり、いつもに比べて、

忙しい時間が続いている。


「撮影のやり直しですか」

「あぁ……プロダクション側がどうしてもOKを出さないと言ってきた」


アイドルの事務所によくあるクレーム。

所属タレントの写真が、相手役のタレントよりも映りが悪いと判断すると、

こちらの都合など無視した状態で、『撮り直し』を希望される。


「中谷、どこかで行けるか」

「えっと……」


早川先生の担当になり、連載を持たない代わりに、

こういったイレギュラー仕事に関わることが増えた。

スケジュール帳を開き、とりあえず空いている箇所を編集長に話す。


「よし、わかった」


気付くと、時間は夜の10時を回っている。

10時か。今から電車に乗るのは、気持ちが乗らない。

もう……家には帰るのをやめた。

啓太あてにメールを打ち込み、そのまま編集部を出る。

近くのコンビニに立ち寄り、お腹に入れるものをいくつか買い込み、

そして、明日のことも考える。

以前なら、行ってもいいのかどうか、啓太の返事を待っていたけれど、

もうそんな必要もなくなった。私のバッグの中には、キーホルダーをつけた、

啓太の部屋の鍵がちゃんと入っているから。



『職場の忘年会で遅くなるから、食事はいいよ』



啓太からの返事が戻ってきたので、私は『了解』と打ち返す。

そうか、『忘年会』のシーズンが始まったんだ。

本来のクリスマス後だと、お店が忙しいからだろう。

今日、忘年会をする『コレック』は周りから見たら少し早めだけれど、

それでも、もう暦は年末に近い。

北風が少し強めに吹いたので、マフラーに顔をうずめるようにして歩く。

せっかく買った温かいお茶も、この寒さで冷えてしまいそう。

私は少し早歩きをしながら、マンションを目指した。



29-③




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テーマ : 恋愛小説
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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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