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29 感化 【ブラッディ・ブル】 ⑤

29-⑤


啓太のマンションに向かう道。

編集部の年内の仕事はもちろん終了したが、

これから私たちは年越しを一緒に過ごすことに決めている。



「ねぇ、啓太はおせちとか興味ある?」

「興味って何」

「お正月はおせちがないとダメだって、そう思うのかってことです」

「別にないよ。うちにそもそもおせちなんて並んでいたことがなかったしね」


そうだった。

啓太は幼い頃に、お母さんと離れたのだから、男2人の家にお重もあるわけがない。


「そう、それならよかった。私も特に好きじゃないから、何もしません」

「なんだその宣言は」

「お正月にお雑煮くらいは作るけれど、あとはいいよね、普通で」

「普通か……食べられればいいよ」


啓太の言葉に、私は軽くお尻を叩く。


「食べられないものなんて、作ったことはないでしょう」


恋人同士に昇格してから、色々料理は作ってきたけれど、

今のところ、大失敗はないはず。


「年末もお正月も、あまりこだわっていないよ。明日が来るということだけ」



明日が来る……



「そうだよね、1日ずつ」


そう、私たちの未来は1日ずつを積み重ねていくこと。

啓太とこうして笑っていられることに、幸せを感じること。

私は啓太と腕を組む。


「初めてだね、ずっと一緒にいるのは……」

「そうだな」


そう……

ちょっとだけ気持ちがセンチメンタルになったけれど、

欲張りになってはダメ。

私は、明日一緒に買い物に行こうねと言いながら、歩き続けた。





「うーん……」


次の日は当然だけれど12月30日。

ベッドの中から一人抜け出し、寒さに身体を小さくしながら暖房をつける。

エアコンの動く音が聞こえ、テレビをつけると、ニュースが流れていた。

東京では、2020年にオリンピックが決まっている。

そのための道路作りなどが計画されていて、年が明けてからすぐに、

とある駅近くの場所も、工事が始まるのだという一覧表が出ていた。

コメンテーターの女性は、土地の買収が大変だった場所として、

どこかの地図を出し説明している。

その時、ニュース映像に流れた場所に見覚えがあり、

まだ目覚めきれていなかった頭は、理解と同時に一気に覚醒した。


「あ……」


『ブルーストーン』

私たちが偶然出会ったあの店がある道。

ニュース映像に出ていた駅名も、

そういえば陽平に呼ばれて待ち合わせをしたところだった。

私はまだベッドの中にいる啓太の所へ戻り、体を揺らす。


「ねぇ、啓太、啓太」

「何……」

「『ブルーストーン』の近く、再開発だって、知っていた?」


啓太は理解できないのか、何も返事がないまま私の顔を見た。

その後数秒して、言葉が遅れて届いたのか、『そうだ』と頷いてくれる。


「知っていたの、啓太」

「いや、そういえば誰かに聞いたなと」


啓太の職場は、全国チェーンのレストラン。

開発の話しも、話題にあがることはあるだろう。


「そう……うん。そうだ、思い出した。あぁ、あの店、無くなるのかなと、
思った覚えが……」

「どうして言わないのよ」


私は今日、一緒に行ってみないかと啓太に提案する。

啓太にとっては、元彼女に言われっぱなしで、いい思い出などないかもしれないが、

あの店がなければ、私と啓太の出会いもありえなかった。


「私、バーテンさんに、挨拶がしたい」

「挨拶?」

「そう……だって、あのお店があったから、今があるし」


啓太からは返事が戻らない。

また、過去のことばかり言っていると、思われただろうか。


「私たちは、こうして未来を目指すことになりましたって……私……」


バーテンダーの方にとっては、どうでもいいことかもしれない。

でも、私は、酔っ払ったみっともない姿だけで、終わりにしたくない。


「いいよ、行ってみようか」

「本当?」


私は嬉しくて、ベッドの中にもぐりこむと、啓太を抱きしめる。

啓太の体温、啓太の匂い……

子犬のように顔をこすりつけた。


「何しているんだよ、未央」

「だって、啓太に『ブルーストーン』のことを話すと、いつも……」


思い出したくないことだと、そういう顔をされたから。


「いつも?」

「いつも……寂しそうな顔をしたから、ちょっと遠慮して」


私はそれでも大丈夫だよねと、顔をあげる。

啓太はその答えを返すつもりで、私のおでこにキスをしてくれた。





『ブルーストーン』

入り口には、年内で営業を終了しますと、そう書かれてあった。

年内のその営業日の最後が……



今日、12月30日。



あのニュースを今朝見たのも、きっと、

私たちにこの店が、新しい未来を与えてくれたから。

傷つき、傷つけられてもまた、立ち上がることが出来た。

啓太が右手で扉を開け、中に入る。


「いらっしゃいませ……」


あの日と同じ、バーテンダーさんが、私たちを見る。

啓太の後ろから私は顔を出し、しっかりとお辞儀をした。



30-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

31 【カカオフィズ】

★カクテル言葉は『恋する胸の痛み』

材料はカカオリキュール 45ml、レモンジュース 15ml、シュガーシロップ 1tsp.
ソーダ 適量 レモンスライス





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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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