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ももんたの発芽室

ももんたのつぶやきや、つたないですが、創作を掲載しています。
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30 ひとりにしないで 【ボンベイ】 ①

30 ひとりにしないで

30-①


私たちは、同じように店が終了することを知り、悲しむ人たちの中に紛れ、

カウンターに腰かける。


「混んでるね」

「偶然とはいえ、最終日だからな」


昔、啓太が元彼女の怒りに下を向いていたテーブルには、

友達同士に見える男性2人が座っているし、残りのテーブルも空きはない。

他のお客様の前から、私たちの前にバーテンさんが動いてくる。


「こんばんは……」


私の挨拶に、すぐ気付いてくれたのか、バーテンダーの男性は

『あぁ……』と言葉を漏らす。隣にいる啓太も、すぐに頭を下げた。


「先日は、色々とありがとうございました」

「いえ……今日で終了だと、どこかでお聞きになったのですか」

「はい、偶然、今朝のニュースで」

「今朝のニュースですか」

「はい」


そう、本当にタイミングがあった。


「そうですか……」


バーテンさんは、『何を飲まれますか』と私たちに尋ねたので、メニューを見る。


「えっと……どうしようかな。啓太は?」

「ん?」


素敵なカクテルもあるし、ウイスキーもある。


「あの日、テーブルにあった『カリフォルニア・レモネード』を」



あの日……

私たちがここで出会った日。

『テーブルにあった』ってどういう意味だろう。


「未央は?」

「うん……。それなら私もウイスキーのロックと言いたいけれど、こっちで」


私は『カルーアミルク』を頼む。


「お二人でいらっしゃるとは思いませんでした」


そう、酔いつぶれた私を介抱した客が啓太だった。

その後も、二人でここへ来たことはない。

私と啓太は、思わず顔を見合わせる。


「あの日、ここで彼女がお酒を飲み干すと言って、それから色々とありましたが、
二人で毎日を1日ずつ、積み上げていこうとそう……」


啓太は両手を使って、色々なものが積み重なったと表現する。


「そうですか、それは素晴らしいですね」


バーテンさんが、本当に嬉しそうな顔をしてくれたため、

私たちも自然と、気持ちが温かくなった。

この店が『全ての始まり』であることは、たとえ形がなくなっても変わらない。

バーテンさんは、カウンターの下から小さな瓶を取り出し、

私と啓太の前に1つずつおいてくれた。

このお店でよく出していたウイスキーの小瓶だと言う。


「お世話になった方々に……」


これは、私たちにくれると言うことだろうか。


「あ、そんな……。俺たちは偶然お店に入って、たった一度しか……」


啓太は、とてももらえるような常連ではないからと、小瓶を戻そうとする。


「いえいえ、そんなことはいいんです」


バーテンさんは、啓太の手を押さえ、もう一度瓶を戻してくれる。


「回数など問題ではありません。こちらのお客様は、あれからも数回、
お見えになりましたよね」


バーテンさんは、私の顔を見る。


「未央……来たの?」


そう。メチャクチャに酔ってしまったあの日から、私は亡くした記憶を取り戻そうと、

何度も『ブルーストーン』に通っていた。


「お気づきでしたか」

「はい、もちろん」


目立たないようにお店の片隅に座っていた気になっていたが、

バーテンさんには、しっかり気付かれていた。


「だって……啓太は何も話しをしてくれないし、それでこじれるし。
でも、この場所に来れば、また、何か始められることがあるかもとか……思って」


出口があるのかもわからないし、答えが見えるのかもわからないようなそんな時間。

思えば、一番苦しかった頃かもしれない。


「そうか……」

「色々とあっても、それは全て思い出になりますよ。お二人がこうして、
新しい日々を歩き出したとお聞きしたのですから。こんなに嬉しい話はありません。
ぜひぜひ……もう、この店も今日で終わりですし」


少ししんみりとなりそうになった私たちに、バーテンさんは、明るく声をかけてくれた。



そうだ、『ブルーストーン』は、

今日で終わり……



もう、この場所はなくなってしまう。


「開発が終わったら、また営業を再開されるのですか」


啓太の質問に、バーテンさんは首を振る。


「いえ、私はもう引退です。ここは元々、お借りしている店でしたし。
開発の後は、どういう建物が建つのかも、よく知りません」

「そうですか」


狭い路地を入って、ポツンと現れるお店。

それが『ブルーストーン』だった。

確かに、大きなビルの中や、

賑やかな商店街の中にあるイメージは持つことが出来ないかもしれない。


「はい、どうぞ」


私たちが注文した飲み物が、それぞれの前に置かれた。

そうだ……あの色。

啓太があの日、何も飲まずに置いていたのは、確かにこれだった。

氷が溶けて中身が薄くなっていくのがわかって、それが気になって仕方がなかった。


「あの……」

「はい」

「このグラス、いただくことは出来ませんか」


私は啓太の注文した飲み物が入った細長いグラスを、

『ブルーストーン』の思い出にもらうことが出来ないかと、そう聞いた。



30-②




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Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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