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30 ひとりにしないで 【ボンベイ】 ③

30-③


「そうだったんだ。私には啓太が頼んだのだと思えてたし」

「だろうね。だって、あいつが勝手に勘違いして飲み始めていたし」


思いがけない話がわかり、怒った状態で店に来たため、

気持ちが乱れていたのだろうと、啓太は『あの日』を分析する。


「だから俺自身は口をつけるつもりがなかったんだ。好んで頼んだわけではないし、
まぁ、状況的にも……飲もうという気も起きなくて。
でも、酔っ払った未央が突然やってきて、このグラスに入っていたお酒を、
二人で飲み干すとそう言っただろ。あの日は、未央がほとんど飲んでしまったけれど……」


啓太はそういうと、グラスを持ち、『カリフォルニア・レモネード』を飲んでいく。

中に入っていたものはあっという間に少なくなり……


「はい」


私の前にもう一度置かれたのは、そう……

一口分のお酒。


「今度はこれを未央が飲む」


あの日と同じように、『二人で飲み乾す』という意味。


「考えたらさ、これがこの色で、
氷が入っているから、溶けていくのがわかって、
未央の気持ちを動かしたのかもしれない。偶然がそこにあった」


もし、啓太が自分のお酒を前に置いていたら、時間の経過がわからなくて、

私は興味を持てなかったかもしれない。


「あの日から、俺の人生は変わったんだ」


『偶然』からのスタート。

啓太の人生も変わったけれど、私の人生も変わった。

年齢もあるかもしれない。でも、『心の傷』まで愛せると思ったのは、

啓太しかいないし、きっと、これからもそうだろう。



愛するということは、喜びだけではないことも、啓太との時間で学んだこと。

困難はまた、絆を強くすることだということも、私は知った。



「ごめん」


気を遣わせたくないのは、私も一緒。


「そうだよね、これからは啓太と一緒に、生きていくと決めたのだから。
だから、きちんと相談するね」

「うん」

「でも……別れませんから」


そう、私は啓太と別れない。

だって……



絶対に、他の人が寄って来るもの……



私は啓太のグラスを持ち、残っていたお酒を飲み干した。

あの時と同じように……


「ん?」


気付くと、啓太が私のグラスを持っている。


「甘いな、これ」

「どうして飲むのよ、勝手に」

「勝手ってなんだよ、これも分けたらいいだろう」


甘いとか文句を言っておいて、啓太は残りを全て飲んでしまう。


「あ……」

「うん」


私は、啓太の背中を軽く叩き、バーテンさんに拍手を送る他のお客様を見る。

そして、少し遅れてはいたけれど、啓太と二人、その拍手に参加した。





「今日はよかったね、あの店に行けて」

「うん。最終日だったとは」

「そうだよね」


年末の年末。

いただいた小瓶と、『カリフォルニア・レモネード』が入っていたグラス。

私は袋をぶつけないように、しっかりと抱える。

電車は、いつものように時刻どおり進んでいくが、

いつもとは違って明らかに空いている。

サラリーマンの姿もなければ、酔っている人の姿もない。

1日が過ぎるだけだけれど、ちょっと特別な日を迎えるために、

みんな家族や恋人と一緒に、時を過ごしているのだろう。


「ねぇ、今年最後の日でしょう、明日はのんびりしようね」

「そうだな、今日頑張ったし」


少しだけ残してしまった掃除をして、

あとはあまり張り切らずにのんびりと除夜の鐘を聞くことにする。

私は啓太の腕をつかみながら、『お正月』の歌を口ずさんだ。





新しい年が明けた。

啓太と一緒に、年末の格闘技を見て、歌を聞き、いつのまにか眠っていて、

お正月は駅伝を見た後、一緒に初詣に向かう。

混雑するのは嫌だったので、本当に近所の小さな神社。

そんな小さな場所が、私たちにはしっくりきた。


「なぁ。何をお願いした?」

「どうしてそんなこと聞くの? 言いませんよ。言ったら叶わないでしょう」

「そんなことないだろう。神様ってそういう存在か?」


初詣の帰り道。

駅の前を通ったので、私は並んでいるパンフレットをいくつか取った。

カラーでバッチリ書かれているものよりも、白黒刷りのようなものの方が、

お値打ちだというのは、以前、何かの番組で聞いた気がする。


「今度はどこに行きたい?」

「寒いのは嫌だな」

「九州?」

「うーん……」


正月休暇のある1月はさすがに休めないので、2月か3月はどうだろうと、

パンフレットを見ながら、色々と考える。

あっという間にマンション前まで着くと、何気なく携帯をチェックした。


「やだ、お父さんからだ」


今年は帰らないと先に言っておいたのに、正月から電話がかかってくるなんて。

私は啓太に先に部屋へ行ってと言い、マンションの前ですぐに折り返した。

数回の呼び出し音が鳴り、受話器の向こうから母の声がする。


「あ、もしもし、お母さん? 未央だけど」

『あぁ……未央』


私は、今日の午前中にお父さんから電話が入っていたと母に話す。

母は、おそらくお酒を飲んでいて、急にかけたのでしょうと笑っていた。


「なんだ、そんなことか。何かあったのかと思ったのに」

『何かあるのなら、何度もかけるわよ』


母に言われて、確かにその通りだと思う私。


「それでお父さんは?」


父は、今、ぐっすりお昼寝中だと言う。


「そうなんだ、それなら未央は元気に暮らしていますと言っておいて」

『ねぇ、未央』

「何?」

『千波ちゃんのこと、聞いた?』


千波ちゃんのこと?


「何?」


母が話してくれたのは、

千波ちゃんが2人目の赤ちゃんを『流産』してしまったという、悲しい話だった。



30-④




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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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