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30 ひとりにしないで 【ボンベイ】 ⑤

30-⑤


仕事が始まり、新年会など慌しい時間が続いたからなのか、

啓太のところに行くのは、1週間ぶりになる。

冬休みの間は、啓太の管理しているお店も忙しく、バイトも田舎がある学生は、

お休みを取ることもあったため、穴埋めで慌しかった。

久しぶりのゆっくりとした時間が持てる。

私はマンションに向かい、鍵で扉を開けるとそのままエレベーターに乗る。

啓太は9時過ぎには戻れるだろうとメールをくれたので、

それから、一緒に遅めの夕食と晩酌と決めていた。

玄関を開け、ライトをつけると中に入る。

誰もいないから寒い部屋だったため、すぐにエアコンをつけ、

温かくなるまで上着は脱がないことにする。


「寒い……」


テーブルの上は、なんだか書類だの、メモだのがバラバラに置いてあった。

私は仕事の書類ならあまり勝手に触るのもまずいだろうと思い、

とりあえずまとめることにする。



『大阪』



啓太の字。

大阪ってなんだろう……

次の旅行先、『大阪』に決めたってこと?



私は台所に向かい、啓太が戻ってきたときにすぐ食べられるよう、

食事の支度を開始する。まずはお湯を沸かすことにした。





啓太のいうとおり、ほぼ9時。

マンションの扉が開き、啓太が戻ってきた。

啓太の帰宅。

私は抱えていたクッションを置き、すぐに迎えに出る。


「おかえり」

「ただいま」


啓太からバッグを受け取り、上着を受け取る。


「あぁ……腹減った」

「うん、すぐに食べよう」


食事の支度をして、二人で食べ始める。

今日は時間のこともあるし、パスタにした。

食事が終了し、テーブルの上にはワイングラスが2つ並ぶ。


「これ、うまいね」

「そうなの。山梨でワイン買ったでしょう。あれから探してみたのよ。
そうしたら結構、この辺でも手に入って」


値段はそれほどでもないけれど、飲みやすいものが多い。

私は初めてだから小さなものを選んだけれどと、グラスを置く。


「そうそう、それで……」

「未央」

「何?」


私が話そうとしたタイミングなのに、啓太が上から言葉を乗せた。

これは何か話したいことがあるということだろう。


「どうしたの」

「俺さ、大阪に出向が決まった」



大阪……



「出向?」

「うん」


『コレック』は全国に店がないわけではないが、関東を中心に展開しているはず。


「どういうこと」

「大阪にある『ダイヤモンド』系列のホテル、知らないかな」

「『ダイヤモンド』って、あの駅前とかに展開している?」

「そうそう」

「そのオーナーが、『コレック』を共同経営することになったんだ」


出張などで、サラリーマンがよく使う駅前のホテル。

『ダイヤモンドホテル』は、業界でも上位の位置にあったはず。


「吸収されるの?」

「将来的にはどうなんだろうな。とりあえず、人材活用術にたけていると、
業界でも評判なんだってさ。それを学ぶという理由で、
東京から関西圏にあるホテル3店舗に2名ずつが行くことになった」


『コレック』の中でも、啓太が担当しているのは、確かに人を回す仕事。

バイトやパート、社員との間に入り、時には補い、時には管理する。


「これからずっとなの?」

「いや、1年だって。おそらく伸びることはないはずなんだ。
それまでには色々と見直されて、業務ももっとスリムになるはずだし」


少し前に、私が見つけた走り書きの『大阪』。

意味は、ここにあった。


「俺を含めて6人ってことだな」


1年……

啓太は一人で『大阪』に行く。


「ねぇ、それは決定なの?」

「まぁ、嫌だと断ることも出来るだろうけれど、条件としては、
俺、家族もいないし、独身だろ。動きやすいと思われただろうし」


確かに、転勤させやすい条件は揃っている。

一人暮らしだし、年齢も30代の前半だし。

何かを掴んで、それを社内で生かす仕事に着かせるには、いい年齢だ。


「1年……」


数字の一番最初が『1』。これ以上小さいものはゼロしかない。

だから、そんなものはすぐに済む。

そう思おうとするけれど、気持ちはなかなか定まらない。



東京と大阪に、別れることになる。



せっかく、一緒に過ごせる時間が、取れるようになったのに。



「問題は、この部屋なんだよな」


終電が近くなると、仕事で疲れると、いつも私はここへ逃げ込んだ。

啓太が大阪に行ってしまったら、それは出来なくなるということで……。


「ねぇ、啓太。1年ならこの部屋、無くさないでよ」


私は、自分が今の部屋を引っ越してここに来るのはどうだろうかと提案する。


「うん……俺はいいけれど、大家がそれをOKするかどうかわからないし、
未央、新潟のお父さんとかが突然尋ねてくることになったら、どうする」



そうだった……前にも、そんなことがあった。

啓太とゆっくり目覚めようとしていた朝、突然の訪問メールに、

飛び起きて帰ったことがある。


「そうか……」


両親に、1年間は部屋には来ないでくださいねなんて言えば、

何かあるのかと怪しまれるだろうし、啓太の部屋に住むからなんて言えば、

複雑な状態になることくらい、私にもわかる。


「向こうには社員寮があるらしくて、貸してくれる約束もあるけれど、
生活費はかかるから、ここをただ置いておくのは……」

「そうだよね」


そう、冷静に考えたら、当たり前のことだった。

私自身も、2つの家賃を払うなんて、とても難しい。


「とりあえず、荷物は収納ボックスに預かってもらえるらしいんだ」


啓太の口からは、出向に対しての迷いも、否定も何もなかった。

少なくとも私には、そう見えた。



31-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

30 【ボンベイ】

★カクテル言葉は『ひとりにしないで』

材料はブランデー 2/4、ドライベルモット 1/4、スイートベルモット 1/4、
オレンジキュラソー 2dashes、アブサン 1dash





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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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