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31 恋する胸の痛み 【カカオフィズ】 ①

31 恋する胸の痛み
31-①


『大阪のホテルへ出向』



『断ってもいい』と言いながらも、啓太の気持ちは、しっかりと前向きになっている。

私が自分のわがままで、なんだかんだという隙間などないくらい。


「最初は疑問符もあったけれど、上司からの話しを聞きながら、
納得できたところもあってさ。『コレック』のために、
自分が出来ることはしてみたいし。谷さんとも、約束したしね」



谷さん……

そうだった。



「ごめん、啓太」


啓太にも、啓太の思いがあるのに。

ここに気楽に来られないこと、会いたいときにすぐ会えなくなることに、

不便さと感じたのかもしれない。


「なんだよ、急に」

「ううん……正直、『大阪に出向』と聞いて、嫌だなと単純に思ったから」


生涯、働いていく男性の方が、やはり仕事には厳しいのかもしれない。


「俺も思ったよ、聞いたときはね。ウソだろ……未央と離れるのかよって」


啓太はそういうと、笑みを浮かべてワインを飲む。


「うん……」

「でも、すぐに考えた。前ならともかく、今ならいいなって」

「いい?」


離れてもいいって、どういうこと?


「離れてもいいというよりも、離れてもきっと、大丈夫だからさ」


離れても大丈夫という、強い絆。


「いつからなの?」

「4月から」

「エ! すぐじゃない」


思わずカレンダーを見た。

あと、2ヶ月と少ししかない。


「うん……」


仕事に前向きな啓太を見ながら、なんとか私も表情を保つけれど、

頑張ろうと励ましても、気持ちはどんよりと曇ったままで……



『大阪』



同じ日本だし、新幹線を使えば、日帰りだって出来る。

そんなこと、わかりきっているのに……



啓太が気にするから、前向きにならないといけないのに……

私は、そう出来ないでいる。



同じベッドの中、同じ布団を被る。

こんな時間が、これからは減ってしまって……



1年の中で、会えない日は、どれくらいだろう。

いや、会える日は、どれくらいだろう……



私はなかなか眠れない頭を、必死に落ち着かせながら、

しばらくベッドの中で、啓太の横顔を見続けた。





『大阪 4月』



このキーワードが、仕事を始めてもとにかくグルグルまわっている。

東京に私、大阪には啓太。ようするに『遠距離恋愛』。

未央に会えなくなるって笑っていたけれど……



いい意味でも、悪い意味でも、啓太は一人に慣れているから。



なんだか、私だけ、一人で暗くなっている気がする。


「はぁ……」


壁の時計、まだ1時間しか経っていない。

長いなぁ……


「中谷さん」

「何?」


話しかけてきたのは、隣の席に座る塚田君。

手に持っている用紙を何気なく見ると、どうも卒業した大学からのもので。


「この仕事のやりがいって、なんだと思いますか」

「ん?」


塚田君は、これから就職活動に向かう後輩たちの前で、

先輩として話しをして欲しいと、就職担当の教員から頼まれたらしい。


「塚田君は? どんなふうに思いながら出版社に入ったの?」


大学を卒業してから7年も経っている私より、1年の塚田君の方が、

学生の心に響くことは言えるだろう。

『やりがい』か……。私は、何を思って入ったのか……


「僕ですか。僕は、昔から本を読むことが好きで、
活字に関わる仕事がしたいと思っていたんですよね」


活字かぁ……

私も本は昔から好きだった。小学校の頃には図書館によく通いましたねと、

確か、校長先生から褒めてもらえたし。



『自分が読者として求めていたものを、今度は発信できたらと思っています……』



思い出した。

確か、就職の面接で、こんなことを言った気がする。

塚田君とは違うけれど、私が出版社を目指そうとしたのは、

そもそも高校時代に初めて決めたバイトが、書店だったからだと思う。


「うーん……」


隣でレポート用紙を置き、手を組んでいる塚田君を見ながら、

私は思わず、笑みを浮かべてしまう。

そうそう、そうだった。初めてのバイトの中で、私は売れ筋の本を並べてみたり、

逆に、あまり伸びていない作品の売り上げをあげるために、レイアウトを工夫したり、

そんなことを仕事としているうちに、中身ももっと魅力的にしてみたいと、

いつの間にか考えるようになっていて。

雑誌も漫画も、『読者層』が必ずあるから、誰でも手に取るものを狙うのではなく、

絶対に手に取る人の層を見抜き、そのターゲットに合わせた誌面を作ること。



そうだった。



大学時代も学園祭のパンフレットのために、色々な企業に広告をお願いして……

楽しさも苦しさも学んだ。

眉村先生や早川先生のように、発信する立場の人たちと出会い、

その手助けをしながら、私の企画にもあれこれ協力してもらって、

それなりに評判となったものもあったりして……



気付くと、7年か……



「中谷さん」

「……ん? あ、ごめん」


塚田君の質問から、すっかり自分の世界に入っていた。

私は、肩に力を入れずに話しておいでよとアドバイスする。


「まだ1年だもの。志はあっても、実際には形になっていないものの方が多いでしょう。
それでも1歩ずつ進んでいるのが、楽しいのだってこと、後輩に伝えておいで」


的確なコメントになったかどうかはわからない。

それでも、私自身、そう思いながら1年を積み上げてきた。

その中で、自分が失恋したり、また新しい恋に出会ったりしながら、

気付かなかった部分にも、スポットライトを当てるようになったりして。

時代は、紙からPCに変化してきたけれど、編集者がしっかりしていない雑誌は、

一時注目されても、あっという間に忘れ去られる。


「コンビニ、行ってきます」


私は席を立つと、コーヒーでも買いに行こうと編集部を出た。



31-②




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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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