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31 恋する胸の痛み 【カカオフィズ】 ⑤

31-⑤


「ねぇ、未央はどうなの? そろそろいいお話ないわけ?」


ひとみには、啓太のことを断片的に伝えていたが、その後こじれたことなど、

知らせていなかったことも多い。話せば色々あるのだが、そこはあえて略して、

『1年後』くらいにはと、未来を匂わせる。


「1年後?」

「そうなの。この4月から、彼が1年大阪に出向しないとならなくて」

「1年……ひとりで行くの?」

「1人って、まぁ、社内全部で6人だから2人ずつかな、一つのホテルに」


私は、これからの仕事のためにと前向きに話そうとしたが、

ひとみは少し怪訝そうな表情を見せる。


「どうしたの?」

「1年離れるのか。まぁ、未央が一人前の編集者だし、
仕事のことを考えたら仕方ないけれど、気をつけなさいね」

「気をつける?」

「そうよ。職場がホテルって言ったでしょ。女性客も多いし、
スタッフも女性が結構いるんだよ」


ひとみは、こまめに会うようにしなさいねと、アドバイスをしてくれた。


「こまめにって……」

「当たり前でしょう。絶対なんてないんだから」


大阪に行く啓太に、こまめに連絡をしないとダメだと言うひとみ。

言い返そうとしたが、言い返せなかった。

確かに、この世の中、絶対はありえない。


「あ、そうそう、彼に東京へ来させた方がいいわね。
お金を使わせていたほうが、余計な行動をしないかもしれないし」

「お金を?」

「いや、待って。向こうの部屋を見ないとダメだよね」


私は、啓太は1年、ホテルの社員寮に入るのだと話し、紅茶を飲む。

この紅茶、バラの香りがするけれど、どこの国の紅茶だろう。


「社員寮? うわぁ……それ、チェック不可能じゃない」

「チェックって……」

「いやいや、本当よ、しっかり見張りなさいね」

「はいはい」


『啓太が浮気をする』と完全に思い込んでいるひとみ。

そういえば、まだ、啓太と会ったこともなかったから。

具体的な姿が想像できないのかも。


「あ、はいはいだって。ほら、未央は甘く見ている。
知らないからね、そんなこと言って、取られても」


ひとみの話しを、聞き流しているわけでも、甘く見ているわけでもない。

それでも、啓太と私には、もっと強いものが出来上がっている気がした。

醜いところも互いに見せ合って、最悪とも言える状況にまで進み、

それでも、ここまで来た。


「ひとみ……私ね、うぬぼれでもなく、本当に私たちは大丈夫だと思えるの。
ここまで来るのに、色々ありすぎるくらいあったから」


ただ『好き』で結ばれているわけではないから、だから大丈夫。


「ふーん……」


ひとみは、私の落ち着き払った態度を見ながら、クスクスと笑い出す。


「未央のその顔。どや顔じゃない」


ひとみはそういいながら笑うと、

私が買っていったケーキを食べようと立ち上がった。





『社員寮? それ、チェック不可能じゃない』



私はひとみの家から戻り、夕食の支度をする。

ひとみの前では大丈夫だと胸を張ったものの、戻ってきてからは、

頭の中を、言葉がただふわふわと浮いている。

確かに、啓太は社員寮に住むのだから、

ひょっこりと遊びに行くのは難しいかもしれない。



『それなら毎週、俺が東京に帰るよ』



なんてことは、あいつの性格だと、やるはずもなく……



『ねぇ、もう1ヶ月以上、会えていないけれど』



こんな文句を言う日が、ある気がして……



「ふぅ」


お鍋のふたがカタカタと動き出したので、私はコンロの火を止めると、

テーブルに運んだ。





「エ! 聞いていないけど」

「話すべきだったのか?」


カレンダーは3月に入った。私と啓太は休みを合わせ、

4月からご夫婦でお店を出す、谷さんの新居へお邪魔することになる。

その出発が明日という日、私は啓太の部屋に泊まることにした。


「話すべきでしょう、そういうことは」

「そうかな」


食事を終えてから、こんな話しに私は少し不機嫌になった。

というのも、啓太の出向先に一緒に行く同僚が、『女性』だということを、

たった今、この場で知ったからだ。


「別に一緒の部屋に暮らすわけじゃないし、
ただ、同じホテルで研修をするってことだけだろ」

「まぁ、そうですけど」


そう、冷静に考えたらその通りなのだ。

でも、なんとなく気になってしまう。


「同期なんだよね、彼女。年齢は俺より2つ下で、まぁ、正直、
30歳を越えて女性で残っているのは、彼女とあと一人くらいでさ。
パワハラとも言えるくらい、風当たりも辛かったりしたのに、
とにかく仕事に関してはしっかりしていて、逆に細かいところにまで気付くから、
後輩たちからはすごく頼りにされているんだ」

「ふーん……」


30歳を越えて、さらに仕事に対して前向きになる女性か。

頭の中に、あの人が浮かんだ。そう、テレビドラマで今活躍している女優さん。

髪の毛はショートで、パンツスーツを着こなす……えっと……


「ねぇ、霧原杏子みたいな人?」


私はテーブルを拭く手を止めて、啓太を見る。

手で、髪の毛はこれくらいだと、説明を加えた。

そう、『霧原杏子』は元宝塚で、いつもシャキッとした役柄をこなしている女優さん。


「霧原? あぁ、いや、違うな」


啓太は芸能人だと誰かなと言いながら、ソファーに寝転んだ。

私はまたテーブルの上を拭きながら、その答えを待つ。


「芸能人かぁ……」

「無理にはいいわよ、別に」

「あぁ、そうそう。セクシー女優のほら、『夏野ルイ』だ。
あの人みたいにさ、こう……」


『夏野ルイ』って、唇がぽてっとしていて、

グラビア界の女神って言われている人じゃないの。

昔、うちから写真集を出したことがあるって、編集長が確か言っていた。


「出ているところが出ていて、で……」


考えているとかいないとかではなく、私の頭が身勝手に命令を出し、

テーブルの上に両手をつく。

『ドン』という重たい音が、部屋に響いた。



32-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

31 【カカオフィズ】

★カクテル言葉は『恋する胸の痛み』

材料はカカオリキュール 45ml、レモンジュース 15ml、シュガーシロップ 1tsp.
ソーダ 適量 レモンスライス





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テーマ : 恋愛小説
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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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