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32 甘いささやき 【ピカドール】 ①

32 甘いささやき
32-①


「どうした」

「台ふきん、洗ってくる」


私は立ち上がると流しの前に向かう。

『夏野ルイ』だなんて、聞かなければよかった。

啓太のいうとおり、一緒の部屋に住むわけではないのだから、

誰と同じホテルで研修しようが、知らなければ気にならなかったのに。

危ないとか、チェックしろとか言ったひとみのせいで、

妙な情報だけが、入ってきてしまった。

バシャバシャと布巾を洗い、蛇口をしめる。


「未央……」

「何?」

「ほら、あった。年末の谷さんの送別会を兼ねた忘年会の写真。ここにいるよ」

「もういいわよ、別に」


姿を見たら、落ち着くわけがない。

精一杯、気にしていませんという態度を取っているけれど、言葉がそれ以上続かなくて。

見てしまったら、もっと気になって、わけもなくイライラしそう。

でも……


「やっぱり見る。ちょっと貸して」


私はソファーで寝転ぶ啓太の前に座り、1枚の写真を手に取った。

真ん中にいるのは谷さん。花束をもらって笑っていて。

その後ろで中腰になっている啓太がいて……



『夏野ルイ』もどきな人は……どこだろう。



全体の7割が男性で、女性の姿は3割ほどだ。

明らかに年上だとわかる女性や、風貌が違う人を抜いていくが、

『夏野ルイ』に見える人は、探せない。


「どこにいるの?」

「ん? いるだろ」

「どこに?」

「谷さんから右側で……って、見つからないか?」

「見つからない。だって、『夏野ルイ』でしょう」


目元のほくろとか、リップでツヤをくわえた唇とか、

女性らしいボディーラインとか……


「ほら、この人」


啓太の指先をすぐに見る。


「エ……」


『夏野ルイ』には、到底見えない。真面目そうで、普通の女性。

いや、普通よりももっと、固そうな。


「この人?」

「そう、この人」

「『夏野ルイ』には、全然見えないけれど」

「そうかもね」


啓太はあっけらかんと冗談で言ったと、私の慌てぶりを楽しんで笑っている。


「何よ……冗談?」


啓太が示した人は、特におかしな人ではないけれど、イメージが全く違っていて、

黒いメガネが妙に目立っている。


「未央はおもしろい、すぐに本気になるし」


啓太はそういうと、ソファーから体を起こし、私の後ろから腕をまわしてきた。

そうなのか、私はからかわれたんだ。


「彼女は『谷本冬実』さん、仕事は出来るし頼りになる人だけれど……」


啓太の息づかいが、私の耳元に残されて、少し遅れた唇が、首筋に優しく触れる。

人をからかってと文句を言おうとしたのに、啓太から起こされた数秒の行動で、

もう、気持ちが代わり始める。


「未央に向けるような感情は、たとえ24時間一緒にいても、持てないよ」


啓太の鼻先が、髪の毛の香りを楽しむように動き、私の心をくすぐってくる。


「もちろん向こうも、そう思っているだろうしね」


たまに会話をするけれど、趣味も全く違うのだと説明される。


「一緒に行くのが女性だからと、そうして心配してくれるのは、嬉しくもあるけれど」


私の動揺なんて、啓太にとってみたらお見通しだった。

『夏野ルイ』だなんて、気にするような名前を、わざと出された。


「啓太が『夏野ルイ』だなんて言うからでしょう。男性受けするような、
タレントの名前をわざと出して」

「ん?」


最初から似ていないこともわかっていて、私をからかうようにしたのだろう。

まんまと作戦に乗り、怒りや悔しさの感情まで、全て見せてしまった私。

時間差で、あらためて怒りが少しだけ沸いてくる。


「わかりませんよ、男なんて、口ではどうでも言えるもの」


啓太の行動に甘えた私は、『もっと甘い言葉』が欲しくなって、言い返す。

『未央がいいんだよ』と、そう言って欲しいから。


「口ではなんでもって、だって、口で言うしかないだろう」


啓太の当然の意見。


「同僚はともかく、お客様にも、かわいい人が来るかもしれないでしょう」


こうなってくると、ただの『いいがかり』だけれど、それでも言ってみる。


『未央だけ……』


その言葉が、ただ聞きたいから。


「まぁ、そうか。そこは否定できないな。
大雨の日、ずぶぬれ状態で助けて下さいって言われたら」


私は胸元に伸びてくる手をはたく。


「どうしてそこで『大丈夫』って言わないの? もう、本当に」



本当に……



「本当に?」


私は言い負けるのが嫌で、そのまま啓太の唇を塞ぎに向かう。

啓太は私の頭に手を入れ、支えを作った。

唇に与えられた感覚を、さらに高めたくなり、

胸元に滑り込む啓太の指を受け入れると、啓太の携帯が突然鳴りだした。


「あ……啓太、電話」

「いいよ、ほっとけば」


啓太は電話に出る気がないのか、着信音を無視したまま私のホックを外しにかかった。



32-②




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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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