FC2ブログ

ももんたの発芽室

ももんたのつぶやきや、つたないですが、創作を掲載しています。
111234567891011121314151617181920212223242526272829303101

32 甘いささやき 【ピカドール】 ③


32-③


「うわぁ……」


本当に驚き、感動した時には、人はそれほど言葉が出ない。

何かを言う余裕などなく、目をそらすタイミングもなくなってしまう。

私と啓太は、すでに眉村先生のところで1度見ているのに、

それでもまた、目で作品を追いかけてしまう。


「これ、飾っていいのか」

「何言っているんですか。そのために描いてくれたんですから」


啓太は大きな額縁に入った作品を、あらかじめ決められていた位置に持っていく。


「これからも、この絵のように、二人で仲良く……」


漫画を読むことは大好きだったけれど、絵がうまいわけではないので、

一度も漫画家になりたいと思ったことはない。

でも、今日ほどうらやましい職業だと、思えた日はないだろう。

自分が描いたものが、人の心を感動させ、また、力にもなれるなんて仕事、

そうあるものではない。

早川先生と以前、対談をした美容師さんも、作品に感激し目指したと言っていたし、

私が扱っているファンレターにも、たくさん声が詰まっている。


「こんな感じで、どうですか」

「なぁ、いいか……」


奥さんは何度も頷き、嬉しそうに大きく息を吐く。


「もう……何がなんても頑張るから」


私と啓太は顔を見合わせ、『よかったね』と互いに視線で語り合った。





谷さんの新居に1泊させてもらい、そこから京都旅行になった。

3月でも、まだ始めのため春休みとは違っていたが、大学生くらいの集団や、

年配のご夫婦など、色々な人たちとすれ違う。


「ねぇ、今のご夫婦見た?」

「夫婦? いや、見ていないけど」


啓太はタレントとでもすれ違ったのかと、後ろを振り返る。


「手をつないで歩いていたの。もう軽く70は越えているだろうなと思える年齢で、
素敵だよね」


嬉しいときばかりではなかっただろう。

時には、もうだめだというくらいのケンカをしたかもしれないし、

口をきかないまま、時間が過ぎていった日も、あったかもしれない。

それでも、やはり一緒にいたいと思えるから、こうして二人、歩いている。


「ほら」


啓太が左手を出してくれたので、私は『ありがとう』と言いながら、

その手をつかむ。

観光ポイントをめぐりながら、途中でお店にあちこち立ち寄り、

ホテルに着いたのは、予定より2時間も遅れた時間だった。



「何しているの」

「これ? ほら、日本地図なんだ」


啓太はネットで地図を呼び出し、それを印刷したらしい。

『全国制覇』に向けて、訪れた場所を塗りつぶしている。


「山梨、京都、静岡……で、岐阜か」

「まだまだかかるね」

「これから、これから」


そう、私たちはまだまだこれからだ。

今日、偶然すれ違ったご夫婦のようになるまでは、

まだまだ、乗り越えないとならないものも、たくさんあるだろう。


「未央のご両親は、今、新潟だっけ」

「うん……二人で農業がしたいって、都会を離れたけれど」


それほど大きな場所ではなく、

自分たちや、私たち子供に配ればそれで終わりくらいの狭い場所だけれど、

太陽と水と風と語らいながら、取り組んでいるはず。


「新潟か……酒もうまいだろうし、魚もうまいよな」

「うん。それは保証する」


生まれながらの田舎ではないけれど、何度か通い、味わった。

啓太が私の両親に会ってくれる日。

そんな日が、1年後にくるのだろうか。


「ねぇ……次は夏前くらいに、北海道に行こうよ」


寒いところは嫌だと言っていた啓太だから、季節を選ぶ。


「未央、北海道好きなのか。前も言っていただろ」

「行ったことがないのよ、実は」


私は、編集部の仕事で、いくつか出張もあるけれど、

なぜか北海道だけは今まで縁がないと話す。


「俺はあるけど」

「そうなの?」

「大学生のときに、バイトでさ、ずっとペンションにいた」


大学の先輩から紹介され、3食つきという条件で、夏休みの間、

北海道のペンションにいたという。


「へぇ……いいなぁ」

「いやいや、結構重労働だったぞ」


啓太がいたペンションのオーナーは、一族で酪農の仕事もしていたため、

男子大学生は、色々重宝がられたと説明する。


「藁を運ばされて、牛の糞を掃除するんだ。それがまぁ、大変だった」


みんな2年目には、辞退していたと笑い出す。


「後輩にはさ、いいバイトだぞって、声かけてね」

「うわぁ……それひどくない?」

「代々、そうされてきたんだよ」


被害者が加害者になる伝統。

それはおかしいでしょうと言いながら、

現代の子供たちには、いい経験かもしれないと思ってしまう。


「よし、北海道ね」

「いいわよ、別の場所でも」

「いやいや、いいですよ」


啓太は未央が選べばいいよと言いながら、畳の部屋に寝転んだ。

私はそんなくつろいだ啓太の姿を見ながら、おいしいものがたくさん食べたいねと、

これからの楽しみを想像しながら、携帯で情報を呼び出した。





そして、3月の終わり。

啓太は、私たちの笑い、泣き、怒った思い出がたくさん詰まっているマンションを出た。

2日、私の部屋で過ごし、カレンダーが4月になる前、『大阪』に向かった。

編集部も新しい年度になり、何かが変わるかと思ったけれど、

たいして新しいことも起きないまま、また仕事の日々になる。


「今年、うちには新人、来ないんですね」

「残念ね、塚田君。先輩の顔が出来ると思ったのに」

「いえ、そういうわけでは」


編集部2年目の塚田君。

新人が入らなかったため、また一番下となる。


「申し訳ないですね、アラサーの私が、居座っているもので。
部屋の中が、よどんだ空気になっているかも……」

「中谷さんまで、そういうのやめてくださいよ。パワハラです」


塚田君はそういうと、『楽しくやりましょう』と席を立って、

編集部を出て行ってしまった。



32-④




コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
この記事のトラックバックURL

プロフィール

momonta

Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

発芽室、ただいま連載中!
『KISE』では、お客様を満足させるため、従業員奮闘中!
ただいま発芽室では『さぁ、お気に入りを買いに行こう』を掲載中! こちらからどうぞ
恋愛小説ブログランキング
チャレンジしてみるブログランキングです。 応援のポチ……お願いします。
FC2ブログランキング
小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!
いらっしゃいませ!
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
小説・文学
176位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
3位
アクセスランキングを見る>>
ブロとも申請フォーム
月別アーカイブ
最新トラックバック