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ももんたの発芽室

ももんたのつぶやきや、つたないですが、創作を掲載しています。
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32 甘いささやき 【ピカドール】 ④


32-④


「あぁ、もう……中谷さん、いじめたらダメですよ」

「いじめていないでしょう」


毎年恒例の2月の社員旅行。

今年はあえて都内のホテルに泊まり、少し食事が豪勢になっていた。

場所が場所だけに、宴会だけに参加し、家に帰ってしまう人もいて、

やはり場所も考えないとならないねというのが、感想だった。


「塚田君に、学生服着せて、直立不動で歌を歌わせたじゃないですか」

「ん? あぁ……あれは吉田さんの趣味でしょう」


じゃんけんで負けた人が行う出し物だったが、

今回は、吉田さんの『新人は当然やるよな』の一言で、塚田君が犠牲者となった。


「あれ以来、塚田君は『パワハラ過敏症』なんですよ」

「何それ」


上司や先輩の言葉に、トゲを感じてしまうのだと、二宮さんは笑う。


「何言っているのよ、全くもう……温室育ちだなぁ」


からかわれているのも、期待されている証拠。

私はそう言った後、書類を整えて席を立つ。

今日は、早川先生とその作品を舞台化した演出家との対談。

スタジオ入りの時間を考えると、もう出た方がいいはず。


「行ってきます」

「はい」


午後には眉村先生のところに行くという二宮さんに見送られ、

私は駅に向かうことにする。

交差点で、一度立ち止まった。

啓太がマンションを出て、1週間、まだ誰も入っていないだろう。

わかっているのに、ここを歩いていけば、

『おかえり』と迎えてもらえる気がしてしまう。

私は視線を左に向け、マンションではなく駅へ向かう。

道の端には、すでに散ってしまった桜の花びらが固まっていて、

時々吹く風に、舞いあがっては、また流されていく。



『今は、とにかくルールを覚えるのに必死だ』



経営者が違えば、会社のルールとも言える部分は、違っているだろう。

啓太は、東京を離れたという気持ちと向き合う時間も、今はないかもしれない。

『こっちにきて』というのは、もう少し経ってからにしようと思いながら、

薄い雲が広がる空を、ひとり見上げることにした。





「はぁ……」


啓太の思いもあるのだからと、1ヶ月頑張っていた4月の終わり。

私は朝、ベッドから起き上がるのが辛いくらい、気持ちが悪かった。

ここのところ、少し気温が上がったからと、薄着をしてしまったかもしれない。

そんな行動を反省しながら、編集部に休みの連絡を入れた。

早川先生の原稿は出来ているし、連載をする先生の担当者がいないため、

今日、どうしてもという仕事は存在しないはず。



『どうした、中谷が休みだなんて、珍しいな』



人の状況などお構いなしにマイペースを守る吉田さんに報告し、また横になる。

カレンダーの日付、まただ……



こんなふうに乱れてしまうのは、3回目。



今回はきっと、気持ちの頑張りに体がついていっていないのだろう。

大丈夫だと思っているつもりだけれど、啓太がいない寂しさに、

ホルモンバランスが崩れているはず。

戸棚の中から体温計を出して、わきに挟む。

1分くらいおとなしく待っていると、ピピピと電子音がした。



『37.3』



微妙な微熱。


「はぁ……」


仕事を休めるとわかったからなのか、起き上がるのもなんとかなる気がして、

私はとりあえずキッチンに向かい、冷蔵庫の中からオレンジジュースを出した。

昨日、スーパーに立ち寄ったとき、新商品と大きく宣伝されていたため、

それならばと手が伸びた。グラスに入れて、一口飲む。

酸味もあるが、その中に広がる甘さ。

メーカーはどこだろうかと確かめた後、またグラスに入れ直した。





『印刷所に直接出向いて、チェックを頼む』



次の日は、一日休んだことがよかったのか、気分も少しよくなった。

うちの出版社を支えてくれている企業のパーティーがあり、

編集長は朝からデスクを空けている。

それが10時過ぎに突然電話が入り、私に印刷所まで向かい、

チェックをして欲しいと、依頼が入った。


「自分のミスですよね」

「まぁね。急に思い出したんだって」

「人騒がせですよ、もう」


二宮さんは、あれだけチェックをとお願いしていたのにと、口を尖らせる。

まぁ、記事を書き、担当者として名前が載る彼女としては、

当然の態度だろうと思うけれど。


「行ってくるね」

「すみません、お願いします」


電子書籍が増え、原稿もPC上でやり取りできるような時代になった。

昔は手でいちいちつけていた漫画の背景も、今は、PCのソフトがあれば、

ほんの数秒で出来てしまう。

しかし、最終的にこれでいいのか、悪いのかという判断を下せるのは、

やはり人間しかいなくて。

私は電車に乗り、印刷所を目指す。

車窓から『花菱物産』の文字が見えた。



『悠……』



悠は、どうしているだろうか。

啓太と生きていくことを選び、別れてから半年が経過した。

今もまた、外国に飛び、企業と人をまとめているのだろうか。



あれこれ考えても、再会するわけにはいかなくて……

ただ、頑張っていて欲しいと思いながら、『花菱物産』のビルから目をそらす。

私に出来ることは、毎日を懸命に生きること。

そう思いながら、視線をまた前に向けた。



32-⑤




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Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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