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ももんたの発芽室

ももんたのつぶやきや、つたないですが、創作を掲載しています。
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33 願いが叶うなら 【マウントフジ】 ⑤


33-⑤


「あ、そうなんだ」

『今週はうち、来週はあっちってね、みんなで手伝いながらさ』

「うん」


緊張していた気持ちが、父の留守という言葉に、ほぐされていく。


「お母さん、実はね……」


私は、妊娠を知ってから、初めて啓太以外の人に、その事実を伝えた。

母は、すぐに『エ……』と声をあげたが、予想よりも冷静に聞いている。


「お付き合いをしている人がいるの。名前は『岡野啓太』さん」


私はそこから、母に啓太のことを全て話した。

啓太が5年前に『悪性リンパ種』になり、放射線治療を選んだこと、

そのため、子供がほぼ出来ないだろうと言われていたことも話す。


「啓太は、ご両親がもういないの。もともと、お父さんがあまり働かない人で……
仕事に出ていたお母さんも……」


啓太のご両親のこと。

その育った環境があったからこそ、

啓太は『家族』に対しての未来図を作ることが出来なかった。

『家族』という形は、啓太にとって、『幸せ』ではなかったから。


「私とも、結婚はできないと、そう最初は言っていたの。私が……ううん、
女性が普通に願うような、家族の形を、自分は作れないからとそう言って。
でも、私は啓太と歩んでいきたいとずっと思っていたから、子供は望めなくても、
それでもいいと、そう言っていた」


受話器の向こうの母は、どういう顔をしているのだろう。

表情はわからないけれど、時々、『うん』という声が聞こえてくる。


「二人で一生懸命に話し合って、一緒に生きていこうと決めて、
今年の4月から、彼が1年大阪のホテルに出向してしまったから、
それが終わったら、『結婚』という形をとろうとしていたの」


そう、啓太は話の中に、簡易的な『プロポーズ』を入れてしまった。

私はそれは聞かなかったことにしていて。


「少し体調がおかしいなと思っていたら、妊娠がわかって。
まさかという思いもあったけれど、でも、本当に嬉しいの。
もちろん彼も、本当に喜んで……」


伝わっているだろうか。

私と啓太の、積み上げてきた1日ずつが……


「お父さんが嫌な顔をすることはわかっている。でも、私は啓太と結婚して、
子供を産みたい」


啓太が不真面目なわけではないこと、子供ができたから結婚をするというような、

そんな浮き出た話ではないことが、どうか伝わってほしい。


話すこと、まだあっただろうか。


『未央』

「何?」

『それで体調はどうなの?』


母は、妊娠初期なので、体調はどうなのか、つわりはないのかと、

私の心配をしてくれる。


「予定日は1月の中旬くらいではないかって。今のところ、体調はいいよ」


ひとみが言っていたような、気持ちの悪さなど、それはない。


『その……啓太さんだっけ?』

「うん」

『体の方は、どうなの』


啓太が『5年経過』をきちんと迎えたことを、私は母に話した。

もちろん、これからも何もないとは言えない。でも、それは誰でも同じ。


「啓太がいてくれて、私がいると思っているから。だから……お母さん、
私たちが挨拶に行ったら、認めてください」


父がダメでも、母さえ認めてくれたら。


『認めるも何も。あなたが決断したことでしょう』


母から、冷静で的確な返事が戻ってくる。


「うん、そうだけれど」

『どうするの? 未央がこっちに来て、二人でお父さんに話すの?』


母は、一緒にそろってきて、そこで話をするのか、それとも、こうして電話があったと、

先に話をしたほうがいいのかと、私に聞いてくる。


「先に言ったら、来るなって言われそうだもの」


私がそういうと、母は『そうかもしれないね』と、笑ってくれる。


『未央のことだからね、未央がその人がいいと言うのだし、
子供も生まれるわけでしょう。お母さんは、よかったなという思いも、半分以上あるよ』

「お母さん……」

『よかったね……未央。おめでとう』


嬉しい言葉に、私は感情が高ぶってしまい、声を出すことが出来なかった。

無言のまま、何度もうなずく。

受話器の向こうにいる母には、そんな仕草が見えていないだろうけれど、

でも、きっと伝わっているはず。


『なるべく早めにおいで。待っているから』


いつも父の影にいて、意見を言わないのが母だった。

怒られてもかばってもらえないと、兄に愚痴をこぼしたこともあったが、

それは、ことを長引かせないという、母なりの作戦だったことも、

大人になってから知った。

優しい母の言葉に、私は『ありがとう』と言葉を返し、受話器を閉じる。

テーブルに置いた『母子手帳』をあらためて両手で握った。





編集長の驚いた顔。

まぁ、当然と言えば当然。

私は、母に話をしてからすぐに、

やはり仕事で迷惑をかけることもあるかもしれないと思い、

編集長に『妊娠』の事実を告げる。


「それなら、これから」

「はい。4月に出向したばかりで、休みを取るのは大変かと思いましたが、
向こうの職場でも理由が理由だからと、時間をもらえたみたいで」


啓太と私が新潟にいく日は、1週間後になる。

本来なら、連続した休みを取ることは難しいのだが、

週末を避けてならと条件を出され、それに私が合わせる形を取った。


「そうか、驚いたけれど、中谷の幸せだしな」


編集長は、それからも数回うなずき、数回大きく息を吐く。


「今のところ、体調も問題ないです」


素敵な指輪も、最高の思い出になるプロポーズも、

女性の憧れる結婚前儀式が、すべて吹っ飛んでしまっているが、

何よりも、今、私のお腹で成長を遂げる気持ちになった赤ちゃんのために、

一番いい方法を先に取ることにする。


「親に挨拶をして、それからあらためて職場のみなさんにも、
協力をお願いしたいと思っていますので、それまでは……」


編集長は、わかったと提案を受け入れてくれた。





寒い冬、その季節に生まれてくる赤ちゃん。

私たちは、夫婦となって、新しい日々を迎えたい。



啓太は仕事を終えた後、最終の新幹線に飛び乗り、私の部屋へ来てくれた。

『新潟』という場所柄、大阪からの方が近いと思い、駅で集合したらと提案したが、

私の体が心配だからと、その前になんとか東京へ到着する。


「ダイヤモンドホテルの支配人さんに、事情は話したんだ。そうしたら、
今日の仕事も考えてくれて、なんとか来ることができた」

「そう」


いろいろな人たちに支えられながら、私たちは生きていることを実感する。


「どう? 体調は」

「うん……今のところは問題ないと思う」


連載を持つ担当の作家もいないという私の状況は、確かに恵まれていた。

締め切り前になっても、以前ほど、大騒ぎをしなければならないポジションにもいない。


「ねぇ、見て、これ」


私は『母子手帳』を啓太に渡した。

啓太はそれを丁寧に開く。


「これからずっと、この手帳に記録が残るんだよ」

「うん」


私たちは、知ってから慌ててしまったおめでたの事実を、

初めて互いに感じながら、その日は早めに眠ることになった。



34-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

33 【マウントフジ】

★カクテル言葉は『願いが叶うなら』

材料はスイートベルモット 2/3、ホワイトラム 1/3、レモンジュース 2tsp.
オレンジビター 1dash





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Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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