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ももんたの発芽室

ももんたのつぶやきや、つたないですが、創作を掲載しています。
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34 守りたい 【ブルドック】 ②


34-②


「驚きました」

「うん……」


両親への報告が終わり、私はあらためて編集部で自分の事情を話した。

突然の報告に、二宮さんからは驚きの声が上がり、

吉田さんは、ただ『めでたいな』と笑ってくれた。

隣に座る塚田君は、『中谷さんに、そういうお相手がいたのですね』と、

いつものパワハラに対する、仕返し的なコメントを返される。

もちろん、すぐに失礼だと思ったのか、しどろもどろになりながら、

『そういう意味ではありません』と、まだ深みにはまるような台詞を付け加えたけれど、

私は、仕事で迷惑をかけるかもしれないと、先に頭を下げておく。


「いえ、迷惑だなんて」

「つわりはどうですか」

「今のところはないかな」


ストレスで体調を崩したときに起きたような不調は、今のところ見られない。

自分がしっかりしなければという、思いが勝っているのかもしれないが。


「そうか……だからこの間の飲み会、行かなかったんですね」

「うん。斎藤さんのおすすめでしょう。参加したい気持ちは山盛りだったのよ、
でもね」

「それはだめですよ、絶対に」


塚田君が、よくありませんと、私に強くNGを出してくる。


「飲みませんよ、わかってます」


私は、状況があるだけに、結婚式は行わず、まずは出産を優先することも話し、

仕事に向かう。



すると、その日の午後、携帯が鳴った。



『眉村先生』



突然の電話に、おそらく二宮さんだなと思いながらも受話器を開ける。

『もしもし』という言葉にかぶさるように、『おめでとう』の声が届いた。



「ごめんね、中谷さん、電話だけで済ませることが出来ずに、お呼びだてして」

「いえいえ、今は担当の先生もいない身なので、結構、自由がききますから」


電話だけで済まそうと思った眉村先生だったが、どうしても話がしたいからと、

仕事場に来てほしいと、結局話が変わっていった。

私も、啓太のこと、園田さんのことなど、仕事以外にもお世話になっている人のため、

何を差し置いてもと思い、プリンを手土産にアトリエに向かう。


「そう……リンパ種を」

「はい。その治療を優先したために、子供を望まないようにと、
医者から言われていたらしくて。自分の過去を思えば、
それほど重要なことだと彼も思わなかったのでしょうね。
潔く治療をしてしまったみたいで」


私は、それでもこうして授かってみて、二人で嬉しくて手を握り合ったと、

あの日、救急車で運ばれた日のことを思い出す。


「私もね、実は娘を産むまでに、2度流産したの」


眉村先生は、仕事をしながらだったから、自分が悪いのかもと、

泣いた日々があったと、過去を思い出すように語ってくれる。


「そうですか」

「そう……。だから、娘がかわいくてね。ついつい、甘やかしているのよ」


そこはまだ別よねと、眉村先生は舌を出し、笑ってくれる。



『流産』



その言葉を聞き、千波ちゃんのことを思い出した。

こうしたことになったという報告を、一番しなければならない人なのに、

それでいいのかと、ふと迷いが生まれてくる。

『何、気を遣っているのよ』と、笑ってくれるのはわかっているけれど、

心の傷がどれくらい深いものなのか、私も今、授かってみてわかるだけに、

あと1歩の勇気が出てこない。

それでも、籍を入れることも、報告しないのではあまりにもと思った私は、

久しぶりに兄の携帯に連絡を入れた。





待ち合わせたのは、兄の職場に近い駅の改札にした。

早川先生にお願いした取材相手の職場に、そこが偶然近かったからだ。

兄が結婚してからは、千波ちゃんと話すことが多く、いつも3人で輪を作っていたため、

あらためて兄妹2人で向かい合うのは、緊張する。

別に恋人同士でもないのだからと、二人で笑い、駅近にあった喫茶店を選ぶ。

兄はブレンドを注文し、私はオレンジジュースをお願いした。


「どうした、お前が俺に電話をかけてくるなんて珍しいな。
しかも、千波にはとりあえず言わないでくれって……」

「ごめん、妙な言い方をして。でも、先にお兄ちゃんに話してからと思って」


私は、お付き合いしている人との間に子供が出来たことを話した。

私が啓太と付き合っているということは、千波ちゃんが間接的に兄に伝えていたらしく、

その人かと質問を返される。


「うん……」

「そうか、それで新潟に」


啓太の事情も語り、妊娠は難しいと思っていたこともあり、驚きはあったが、

二人で喜んだこと、とにかく籍を入れることを優先するためこうなったと、

できる限り事情を細かく話し続ける。

兄は、黙ったまま聞き続け、時々頷いた。


「それで千波に言っていいのかと」

「千波ちゃんならね、それはよかったってきっと笑ってくれるのもわかっているの。
でも、傷の深さは私に計り切れていない気がして」


兄は、私の気持ちも理解してくれたのか、何度かまた頷いていく。


「親父とお袋は」

「お母さんは年齢のこともあるし、私たちが決めていることだからと、
喜んでくれたのがわかったけれど、お父さんは……反対はしないと言うだけだった。
おめでとうとは言ってくれなくて」


まぁ、無条件に受け入れるとは思っていなかったからいいけれどと、

私は、精一杯強がってみせる。


「男親って、複雑なんだろ。息子と違って、娘は名字を変えてしまうし、
どこか……そうだな、自分のところから離れていく気がするのかもしれないし」

「離れるって、今だって離れて生活しているでしょう」

「そういう意味じゃないよ。父親は、この世の中で、娘の一番そばにいる異性は自分だと、
思うものなんだって。そう、昔さ、千波の家に挨拶に行った日、迫田のお父さんのことを、
お母さんがそう言っていた。嬉しさの反面、切なさもあるって」


今頃、そんな冷たい態度を取ったことを、父親も反省しているよと、

兄は笑い出す。


「そうかな……」


照れや切なさの裏返しなのかと思えば、少しは気持ちが楽になるけれど。

そう思いながら、ストローでジュースを吸い上げる。

冷たいのどごしが、気持ちいい。


「千波には未央から連絡してくれ。俺は知らないふりをするからさ。
あいつ、そうやって頼られるのが嬉しいんだ。子供のことは気にしなくていい。
きちんと乗り越えているから」


兄はそういうと、『奏樹より私の方が』というのが、千波ちゃんの口癖だと、

似てもいない真似をしてみせる。


「そんな言い方しないでしょう、千波ちゃん」

「ん?」

「悪意が入っているよ、お兄ちゃん」


私の言葉に、兄はそうかと首を傾げてみせる。

私は、あれほど出来たお嫁さんはいないからねと、兄にしっかり釘をさした。



34-③




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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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