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ももんたの発芽室

ももんたのつぶやきや、つたないですが、創作を掲載しています。
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34 守りたい 【ブルドック】 ④


34-④


結局、2日仕事を休み、3日目に出社した。

二宮さんは大丈夫ですかと心配してくれ、塚田君は、僕が代わりますよと、

早川先生の事務所に行く仕事を、引き受けようとする。


「大丈夫、大丈夫。私が行きます。今日は本当に気分がいいし、
2日いろいろ感じてみて、自分なりに距離感がわかるようになってきたから」


そんな自信はどこにもないけれど、うだうだ言うのも違う気がした。

いくら妊娠していようが、つわりがこようが、編集者として頑張ると決めた以上、

環境に甘えているわけにはいかない。

外に出た方が気分が変わる気がして、早川先生に渡す原稿を持ち、

元気に編集部を出発する。

バッグに入れておいたレモン味の飴を一つ取り出し口に入れた。

酸味が口の中に広がっていく。


「ふぅ……」


仕事場では、目一杯元気を演出するけれど、

ここ2日、この飴しか喉を通っていなかった。

ご飯を作る気持ちにもならないし、惣菜を買おうとスーパーへ入ると、

いろいろな匂いが混ざる状況に、すぐ気分が悪くなるのだ。

そういえば、ひとみが言っていた。

つわりの時に、ご主人が食べ物を見えるところから排除してくれたり、

一緒に乗り越えようとしてくれたことが嬉しかったって。

確かに、そばにいてもらえるだけで、一人ではないと思えるだけで、

どれほど勇気も力も沸いてくるだろうか。

今まで、仕事で遅くなれば、疲れたからと啓太のマンションに向かい、

気持ちを解放していた時間があったことを思い出していく。

駅に向かわなければならない足は、昔の『オアシス』へと動いてしまった。

赤信号で立ち止まり、『303』を見る。

まだ入居者は決まっていないのか、紙のカーテンが窓に映る。

あの部屋の明かりを目指して歩いてきた日々。

嬉しさもあったけれど、いつも不安もつきまとっていた。

このまま、いつまでこうしていられるのかと。



『岡野未央』



そう、私は岡野未央になった。

私は、私が一番望んだ日を、こうして生きている。

『つわり』がつらかろうが、それは新しい幸せのため。



私は、啓太と築く幸せのために、今、生きている。



「頑張ろうね」


まだ、変化の見えないおなかに手を当て、私は駅に向かって進み出した。





『つわり』の先輩であるひとみにもアドバイスをもらい、

なんとか乗り越えようとしていたものの、日に日に体力が奪われていく。

気分は悪化するだけで、何も考えられない時間の方が、増え始めた。

なんとか電車に乗ろうと駅まで向かっても、車内のむせかえる匂いに跳ね返される。

カレンダーが6月になってから、私は何回早退と欠勤をしているだろう。

これでは、みなさんに迷惑をかけているだけになる。



『退職』



その2文字が頭の中をよぎった。

大学に入り、本が好きなことを生かそうと、編集者になった。

企画を認められ、自分の記事が形になり、嬉しくて壁に貼り付けた。

先生方と出会い、ものを作り上げる喜びを得て、自分も成長した。

いつの間にか30歳になろうとしているけれど、この日々に何も後悔はない。

これからも、雑誌に携わり、生きていきたいと思っていたのに。



望んで、望んで、嬉しくて涙を流したはずなのに、

『どうしてこんなに苦しいのか』と、頭と心がバラバラになりそうだった。



『未央、体調はどう』

「うん……」


それでも、啓太からの電話には、必死に大丈夫だと繕った。

一度吐き出してしまうと、止められなくなる気がした。

戻ってきてほしい、ここにいてほしいと、出来るはずもないことを言ってしまうだろうし、

それで、悩む啓太の姿も、想像できる。


「少し気分が重いなと思うこともあるけれど、仕事がいい意味で忘れさせてくれるの」


『何もない』とあまりに言い過ぎると、逆に怪しまれる気がして、

私はそう濁してみせる。


『そうか、無理するなよ』

「わかっています。啓太こそ、どうなの?」

『俺は、ずいぶん慣れた。学ぶことも多いし、発見もあるしね』


話しながら、カレンダーを見た。

『大阪』に向かってから、まだ3ヶ月も経っていない。


「それじゃ、明日も早いから、もう寝るね」


私は力を振り絞った電話を終わりにした後、そのまま床に寝転んだ。

口の中をさっぱりさせたくて、バッグの中に入っているはずの飴を探す。


「あれ?」


いつも買ってあると思っていたのに、見つからない。

今から買いに出て行く気持ちにもなれなくて、ただ情けなくなった。

こんなことで、胎児に栄養が届くのだろうか、

啓太が来たときには、身体にいいものを選んでいるなんて言っておいて、

今の私は全然、出来ていない。

そんなことを考えていると、涙が出始めて、止まらなくなった。

こんなに弱い人間ではないと、自分では思っていたのに。

どんなに締め切りで慌ただしくても、眠る時間が削られても、

へこたれたことなどなかったのに。



もう……



どうしたら、ここから抜け出せるのか、全然わからない。

その日の夜も、気持ちと身体のギャップに打ちのめされながら、

不満足な朝を迎えていた。





支度を整えて、駅まで向かう。

階段を降りていると、また突然吐き気が襲ってきた。

大きく息を吐き、呼吸を整えていたが、足が前へ進まない。

それでもと改札前まで来たとき、駅員が張り紙を出しているのが見えた。



『電気系統の故障 復旧の時間は未定です』



通勤電車が動いていないということがわかり、

力が抜けた私は、その場でしゃがみ込んでしまった。


「大丈夫ですか」



『HANABISI』



私の目に映ったのは、『花菱物産』の封筒だった。



34-⑤




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Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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