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ももんたの発芽室

ももんたのつぶやきや、つたないですが、創作を掲載しています。
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34 守りたい 【ブルドック】 ⑤


34-⑤


そう、悠がよく持っていた、ロゴ入りの封筒。


「気分でも悪いのですか」


その男性は、駅員を呼びましょうかと、私に声をかけてくれた。

私は大丈夫ですと立ち上がる。


「すみません、大丈夫ですから」

「そうですか」


その男性はそれならと少し私から離れ、携帯を取り出した。

時間を確認し、受話器を耳に当てる。


「もしもし、すみません、田村です」


声をかけてくれた田村さんは、『花菱物産』の封筒を抱え、

今、駅の前で足止めをくらっていると、そう話し出す。

ここから15分ほど歩くと、別路線の駅があるため、

今からそちらに動きますと報告しているようだった。

その方法があるかと思い路線図を見るが、私が向かう編集部とは方向が違うため、

動くわけにはいかず、ただ、復旧をここで待つべきなのかと思っていると、

聞こえた名前に心臓がコトンと音を立てる。



「上村さんを、お願いします」



『花菱物産』は日本でも大手の会社だ。上村という名字も、それほど珍しくはない。

だから、違う人である可能性も高いけれど、でも……



悠ではないかと、そう思ってしまう。



「あ……すみません、田村です。はい、はい……」


田村さんは、指示を受けているのか、何度も頷いていく。


「わかりました。それでは、現地で合流しましょう。
上村さんが来てくださるのなら、インドネシアのスタッフも安心するでしょうから。
エ? わかってますよ、僕がメインで発表します。へこたれてませんから」


田村さんは、少し微笑みながら簡単な話を終えると、受話器を閉じた。

もう一度私の方を向き、小さく頭を下げてくれる。

私も、それに併せて、頭を下げた。



『上村さん』

『インドネシアのスタッフ』



悠は、海外のスタッフと仕事をすることも多かった。

時には現地に出向き、時には日本へ来た人たちをまとめていた。

『へこたれません』と答えていた田村さん。受話器の向こうにいた『上村さん』は、

おそらく『しっかりしろ』とか、『頼むぞ』とか、励ましの言葉をかけたのだろう。



『頑張れ』とか……



今、田村さんと話をしていたのは、きっと悠。私はそう思うことにした。

私の気持ちが崩れそうになったとき、田村さんが目の前に偶然現れた。

『花菱物産』の封筒を持っていた。



自分勝手な想像だけれど、きっと、今のは悠だと思う。



私は一度、大きく息を吐いた。

私こそ、何をへこたれていたのだろう。

『つわり』なんて、誰だって乗り越えていくものなのだ。

甘えていてはダメ。赤ちゃんが成長しているのだから、気持ちをしっかり持とう。

私は駅員に状況を聞き出し、一度部屋に戻ることにする。

どこか後ろ向きに、否定的に考えていた気持ちを立て直そうと、1歩前に進んだ。





「中谷」

「はい」

「お前、大丈夫か」


気持ちだけは前を向き、なんとか仕事を続けているものの、

食欲は戻らないまま、また数日が過ぎる。

顔色があまりよくないと思い、ファンデーションの色を変えてみたが、

体全体から出て行ってしまうマイナスのようなものが、

完全に『不調』をアピールしていた。

編集長は、仕事は塚田君に任せ、まずは体調のことを先に考えろと言ってくれる。


「いえ、大丈夫です」


全然、大丈夫だという根拠もないのに。

そう言わなければと、口だけが勝手に反応した。


「仕事をしていないと、さらに……」


そう、それは嘘ではなかった。

仕事をしていないと、一人で部屋で何もない時間と向き合っていると、

あっという間に大波にのみ込まれてしまうような状態だった。


でも……


「いえ、すみません編集長。この状態だと、
みなさんにご迷惑をかけていることはわかっているんです。
正直、辞めた方がいいのかとか、色々と」


そう、ベッドの中で、天井を見ながら、夜になるといつも考えていた。


「中谷、そんなことを考えているから、気持ちが滅入るんだぞ。
お前の力がうちに必要なのは、みんなが認めている。
規則があるようでないようなところが、編集者のいいところだろう。
うちの家内もそうだったが、この不調には期限があるわけだし」


『期限』

そういえば、ひとみもつわりが終わった後は、これでもかというくらい、

食事がおいしくなったと言っていた。


「たまにはみんなに甘えたらいい。
お前が元気に戻ってきたら、またドンドン動いてもらうから」


今まで、編集長の言葉を長いと思ったり、しつこいと思ったことは何度もある。

でも、嬉しくて涙が出そうになったのは、間違いなく初めてだ。


「ありがとうございます」


人は支えられて生きているのだと、あらためて思った。





それからというもの、通勤ラッシュになるような時間は避け、

車内でも座れる確率が高い時間に、出社することになった。

スペースに余裕があるだけでも、追い込まれるような気分はなくなる。

そして、『つわり』と付き合い始めてから10日経った日曜日の朝。

目覚めた時に、携帯にメールが届いているのがわかった。

啓太かと思って見ると、新潟にいるはずの母からで。



『午後には東京に着くと思います』



なぜなのか理由はわからないけれど、

母が一人でここへ向かってきていることがわかった。

私は、冷蔵庫に何も入っていないため、、今からでも買い物にと思い立ち上がったが、

またすぐに気持ちの悪さが襲ってきた。



『未央、こんな食生活をしていたら、よくないでしょう』



100%、そう言われるはず。


今の私の主食は、『レモン味の飴』。

それと、シュワシュワする炭酸の水。



『お母さんが来る』



それでも、どうしようかと思ったのは、実は数分間で、

私は気づくと、またベッドで眠っていた。



インターフォンの音。

半分目が開いたとき、母のことを思い出した。

ベッドから起き上がり、すぐに対応する。

向こう側にいる母は、『まだ寝ていたの?』と、当然の質問をぶつけてきた。



35-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

34 【ブルドック】

★カクテル言葉は『守りたい』

材料はウオッカ 1/3、グレープフルーツジュース 2/3





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Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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