FC2ブログ

ももんたの発芽室

ももんたのつぶやきや、つたないですが、創作を掲載しています。
111234567891011121314151617181920212223242526272829303101

35 思いやり 【ハイ・ハット】 ③


35-③


『新大阪』



アナウンスが聞こえ、私は隣に座った男性に『すみません』と声をかけ、

扉の方へ移動する。

新幹線の改札口まで、啓太が迎えに来てくれると言っていたので、

おそらく大丈夫だろうと思いながら、手すりにつかまり前へと進んだ。



「未央!」


啓太は、約束通り改札の前で待っていたが、

その時、私はまだ階段の途中で……。

全くもう、手を振るくらいでわかるのに、名前を叫ばれて少し恥ずかしくなる。


「啓太、こんなに人がいるところで名前呼ばないでよ。手を振ればわかるのに」

「あ、そうか」


1泊だけするつもりだったので、それほどの荷物はないのだけれど、

啓太はすぐに私からバッグを取ると、お決まりの言葉をかけてくれる。


「体調はどう、大丈夫か」

「大丈夫です。今もね、ホームに降りたら『たこ焼き』の匂いがしたの。
ふわって」

「たこ焼き? するか? そんなの」


啓太は感じないけれどと、鼻を動かし首を傾げてしまう。


「しているわよ。啓太は毎日のようにいるからわからないの。
おいしそうなソースの匂いが、鼻にほら……」

「串カツじゃないのか?」

「串カツ? ん? そう?」


同じソースの香りだからと、啓太は言いながら歩いて行く。


「未央、まずはホテルに行こう。うちの最上階のツイン。それも広めの部屋をさ、
支配人が予約入れてくれて」

「最上階?」

「うん……妻が大阪へって言ったら、それならって」



『妻』か……

なんだか啓太からそんな言葉を聞くと、照れくさい。


「やだ、妻って言い方。未央でいいのに」

「何言っているんだよ、上司に未央が来ます……なんて言えるか。
普通は家内がとか妻がとか、そういうものだろ」


啓太も少し照れくさかったのか、私の目を見ないまま、そう言い返す。

私たちはとりあえず、啓太の職場にもなっている『ダイヤモンドホテル』へ向かった。

ロビーに顔を出すと、啓太がお世話になっている同僚や上司が出てくれて、

私はそれこそ『妻』としての仕事を、初めて体験する。

啓太の話しの通り、最上階の鍵を渡され、そのままエレベーターに乗った。


「クッ……」


扉が閉まると、押さえていたのか、啓太が笑い出す。


「どうして笑うのよ、笑うところはないでしょう」

「いやいや、あっただろう。自分は妻って言葉に反応しておいて、
今、ホテルのみなさんに『主人がお世話になっています』ってお前……」

「エ? だって、そこで啓太がお世話になってなんて、普通言わないわよ」


そうだった。今、当たり前のように私、

『主人がお世話になっています』と、挨拶していた。

今頃遅れて、恥ずかしくなってくる。

互いに顔を見合わせた後、それでも笑っているように思えた啓太の背中を、

軽く叩いてみた。


「未央。どちらかというと、ここはビジネスホテルに近いからさ、
部屋にあまり期待するなよ」


啓太は、ゴージャスな雰囲気はないぞと、さらに押してくる。


「何言っているの、私の目的は、啓太が働いている場所を見るためだもの、
泊まれるだけで十分です」


それは本当の話。

啓太が『大阪』に出向が決まり、もっと早くこの場所に来てみたかったけれど、

私たちはこの数ヶ月、他のことなど何も考えられないくらい、慌ただしかった。

喜んでみたり、落ち込んでみたり、一緒に泣いたり笑ったり。


「うわぁ……すごい、すごい」


今はまだ昼間だけれど、この場所からなら、夜の町並みがきれいに見えるだろう。

『東京』とは違う『大阪』の色、それがある気がしてくる。


「駅には近いし、ビジネスマンたちにはバッチリね」

「そうだけれど、意外にも、パック料金で泊まる観光客も多いんだよ。
利便性を求める人たちには、いいらしい」


家族連れや年配客には畳の温泉旅館などが人気だが、学生の旅行や、

格安料金であちこち回ろうとしている旅行者には、

気取らず、さらに行動が取りやすいこのホテルが受けていると教えてもらう。


「そうか、そう言われてみたらそうかも。ホテルはここにして、
浮いたお金でおいしいものとか思う観光客もいるかもしれないね」


ビジネスホテルと言っても、日本のレベルは高いはず。


「啓太は、毎日ここで頑張っているんだね」

「あぁ……」


啓太は、ホテルの建物に入って来た時、入り口の横にあるスペースが、

来年以降、『コレック』に変わるのだと教えてくれる。


「あれ? 今、喫茶店があったところ?」

「そう、そこと奥も使ってね」


都内にある店舗よりも規模は小さめだが、朝のモーニングなど、

ホテル近くの利点を生かし、展開する予定だと教えてもらう。


「ホテルマンの接客技術とか、研修のレベルは本当に高いよ。
日本もオリンピックを迎えるだろう、ロビー担当の人たちなんて、
自分で英会話を習ったり、色々な国の食文化とか、本当によく知っている」


宗教や育った土地の違いで、色々、制約も多い。

私はそうなんだと話しを聞き続ける。


「学ぶことも多いし、あのまま『コレック』で仕事をしていたら、
知識として得られなかったこともたくさんあるから、1年は本当にいい経験だと思う。
でも……」



でも……



「本音を言えば、今すぐにでも未央のところに戻りたい……」



啓太……



「そのお腹が大きくなっていくのを、一緒に見ていたいなと思うよ」


そういうと、啓太は、窓際に立つ私を包み込むように優しく抱きしめてくれる。

啓太の匂い。

ただ、安心する。


「あんな親だったけれど、それでもいてくれたから自分がいるだろ。
近頃、そう思うようになった」

「うん……」

「自分が生きている意味を、本当に今はかみしめながら毎日を過ごしている」

「うん……」


啓太と私。

気持ちも視線も合わせ、久しぶりに触れた唇。


『ブルーストーン』で出会い、日々を重ねていた頃には、

どこかが触れたら、もっと深く触れて欲しいと思ったし、

他には何も考えられないくらい、自分に酔わせてみたいと思っていた。

それはきっと、激しいくらい愛されていないと、次の日が来ないかもしれないと、

焦りに近い感情も持ち続けていたからだと思う。

『求められること』が、愛情の証だと、ただ、必死に唇を重ね続けて……



でも、今は……



軽く触れただけでも、その先などなくても、

私は啓太に愛されていると、そう強く感じることが出来る。


「ねぇ、啓太」

「何?」

「まさかとは思うけれど、今日はこのままここだけってことではないわよね」


私は、せっかく『大阪』に来たのだから、どこかに行こうと声をかける。

啓太もそうだねと返事をして、私たちは手をつなぎ、部屋を出ることにした。



35-④




コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
この記事のトラックバックURL

プロフィール

momonta

Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

発芽室、ただいま連載中!
『KISE』では、お客様を満足させるため、従業員奮闘中!
ただいま発芽室では『さぁ、お気に入りを買いに行こう』を掲載中! こちらからどうぞ
恋愛小説ブログランキング
チャレンジしてみるブログランキングです。 応援のポチ……お願いします。
FC2ブログランキング
小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!
いらっしゃいませ!
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
小説・文学
176位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
3位
アクセスランキングを見る>>
ブロとも申請フォーム
月別アーカイブ
最新トラックバック