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ももんたの発芽室

ももんたのつぶやきや、つたないですが、創作を掲載しています。
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35 思いやり 【ハイ・ハット】 ④


35-④


体のこともあるので、あまり遠くに行くことはせずに、

それでも、啓太がいつも過ごしているような場所を、案内してもらった。

仕事で大阪に来たことはあったが、時間に追われないで街を歩くことはなかったので、

お店のおばちゃんの雰囲気も、大阪城からの景色も、素直に受け入れていく。


「疲れてないか」

「ないない。先生にも言われているの。安定期に入ったら、
つわりで動けなかった分も、きちんと歩いたりしてくださいねって」


お産は病気ではない。

むしろ、体力をつけておかないと、数時間の陣痛に耐えられず、

違った意味で体調不良を起こす妊婦もいるらしい。


「編集部から駅までの道も、少し坂があるでしょう。前よりもヒールの低い靴にして、
毎日ハミングしながら歩いているの」

「ハミング……」

「そうよ。あ、そうだ、この間ね、『303』に新しい人が入ってきた」

「マンションの?」

「うん」

「未央、そんなもの確認していたのか」


私は、時々遠回りをするだけだと、言い返す。


「だって……あの部屋のことは、一生忘れないと思うもの」


啓太が東京に戻ってきても、これからは2人、いや、3人で暮らしていくため、

あの場所に戻ることはないだろうけれど、それでも、笑顔も涙も怒りも、

啓太との思い出は、全てあの部屋に詰まっていたから。


「でももういかない。人のものになったから」


私はそういうと、今日はどういった夕食をとるつもりなのかと、聞いてみる。


「何がいい」

「おいしいもの」

「なんだそれ」


私は隣にいる啓太の腕を取り、寄り添いながら散歩道を進む。

啓太はレストランの方がいいのか、それとも地元の店がいいのかと、

私に聞いてくる。


「そうだな……どうしよう」


こうして一緒に過ごせること、時間の経過を同じように感じられること、

私はそんななにげない幸せを精一杯受け入れながら、また一歩を出した。






「はい、大阪」


啓太の地図。新しく『大阪』に色が塗られた。

啓太のマンションにおいてあったベッドよりも、さらに大きなベッド。

二人で並んでも、左右には結構余裕がある。


「明日の朝、一度寮に戻って、制服に着替えないとな」

「そうよ、そうそう。制服見せるって言ったもの」


私は隣にいる啓太の顔を見るため、体を横にする。

啓太は視線をこちらに向け、右手で、私の髪や耳に触れていく。

もう少しという思いが互いにあり、啓太が動いてきた。

私の髪の毛に触れながら、おでこに唇が触れる。


啓太の息づかい、肌に触れて……

女としての思いを、くすぐられる。


また明日になったら、私たちは離れることになるのだから、もう少し……


「やっぱり、指輪、買えばよかったんだ」

「いいって言ったでしょう」


啓太は私が望むのならと思い、考えてくれていたようだが、

私は今はいいからと、それを断った。


「指も体型も、元に戻ってから、それからでいい」


今だと、少しサイズが大きいかもしれないからと、笑い返す。


「そんなに変わるか」

「変わるかもしれないでしょう。いいの、もらう本人が待ってって言っているのだから」


今欲しいもの、それは指輪ではない。

こうして、誰にも邪魔されない、二人だけの時間。

目を閉じることがもったいないと思うくらい、貴重な……


「啓太……」

「ん?」

「こうして隣に寝ているのに、何もされないのは珍しいね」


妊娠がわかってから、啓太が何度か東京に来てくれたけれど、

私の部屋にあるベッドはシングルのため、あえて床に布団を敷き、別に寝てくれていた。

啓太が苦笑いしたように見える。


「なんだそれ、そういうときだってあっただろう、人を動物のように言うな」

「動物でしょう、人間だって」


私は、もう一度、幸せを味わいたくて、啓太に近づくと唇に触れる。

勇気を出して、少しだけ舌先を動かすと、啓太がそれを受け入れた。

からみつく時間は数秒なのに、気持ちは一気に変化する。


「未央……」

「もう少しだけ……」


このまま、喜びの中で眠りの時間に入っていけるようにと、啓太の目を見ると、

わかってくれたのか、その手が私の中に伸びてくる。

手のひらに包まれる自分の膨らみから、じわりと温かいぬくもりが伝わってきた。

指先で私の反応を見るような、挑発的な行為ではなく、

私の体全てを、優しく包むように、啓太は手を動かし、その思いを乗せてくれる。

私は自然と啓太に手を伸ばし、同じように愛情のぬくもりを届けていく。

唇も、指先も、吐息というかすかな声も、

相手に愛情を伝えるためにあるのだと、何度も唇を重ねながら感じ取っていく。


「啓太……」


いつも名前を呼ぶ時とは違う、私の声。

啓太は唇を離し、首筋からその下へと動き始めた。

久しぶりの感覚が、自分自身を目覚めさせていくのがわかる。

上掛けが動き、素肌が啓太のものになると、嬉しさが声になって向かってしまう。

啓太はそれからしばらく、岡野未央になった私に、触れ続けた。

私自身も、もっと啓太を愛していたくて、その背中に手を向けていく。

艶やかな夜は、激しさとはしっかり線を引きながらも、

十分私たちを満たしてくれた。



35-⑤




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Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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