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ももんたの発芽室

ももんたのつぶやきや、つたないですが、創作を掲載しています。
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35 思いやり 【ハイ・ハット】 ⑤


35-⑤


「気をつけて」

「うん」


次の日、約束通り制服姿を見せてくれた啓太に見送られ、

私は『新大阪』のホームに戻り、また指定席で東京へ戻ることにする。

職場へのお土産、そして、兄の家へのお土産など、忘れないように足下に置く。

新幹線が動き出し、少し落ち着いてから、

携帯で撮った、啓太の制服姿の写真をあらためて眺めた。

『コレック』で働いていたときの、スーツ姿もさまになっていたけれど、

『ダイヤモンドホテル』の揃いのスーツも、なかなかだ。

なんだろう、写真を見ていたら、顔がにやけてくる。

結婚して、『主人です』と言えるような人の写真を見ながら、

笑っている妊婦って、ちょっとおかしく見えないだろうか。

いや、見えてもいいや。

事情もわかっているし、貴重な1年だと納得しているのに、

心はやはり、さみしくて仕方がないのだから。



それからの私は、毎日啓太の写真に話しかけながら、

少しずつ存在の大きくなるお腹を、愛しく見つめていく。

季節は夏から秋を通り越し、朝晩の寒さに、首をすくめる季節となった。



「それじゃ、頼むね、塚田君」

「はい、任せて下さい」


すっかり新人色が消えた塚田君に、早川先生の仕事を任せ、

締め切り前の原稿を入稿した私は、編集長に挨拶をする。


「色々とご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」

「おぉ、中谷もしっかり頑張れよ」

「はい」


すっかり妊婦だとわかるようになった私は、

いよいよ近づく出産に向け、『産休』を取ることになった。

席に戻ろうとした私の前に、何やら笑っている二宮さんが近づいてくる。


「はい、中谷さん。編集部のみんなからです」

「エ……」


両手で出してくれたのは、かわいらしいお花のブーケだった。

編集部員からの、応援メッセージも、ついている。


「やだ……みんな。こんなこと……」


予想もしていないことをされると、人は頭が真っ白になる。


「中谷さんがこうしてチャレンジしてくれてこそ、私たち女性編集者は、
ますます権利を主張できるというものですから」


二宮さんは、出産イコール退職ではない未来図を、見せて欲しいと言ってくれる。


「うちの雑誌は、女性がメインターゲットだ。しかも、電子書籍に力を入れ、
その購買層は、主婦や働く女性であることも間違いない。二宮の言うとおり、
中谷のこういった経験が、また、違った切り口を生み出す可能性も高いはずだ」

「編集長……」

「何だ、二宮」

「編集長のお話に心から納得できる、貴重な日ですね、今日は」

「は?」


二宮さんの言葉に、一番反応し大きな声を出して笑ったのは塚田君で、

先輩の編集者から背中を軽く叩かれる。


「……すみません」


テンポ遅れの謝罪が、まだ編集部員たちの笑いを誘い、私は本当に明るい気持ちで、

編集部を離れることが出来た。





「そっか、明るく送り出してくれたんだ。いい職場だね、未央ちゃんのところ」

「うん……本当に感謝している」


仕事が休みになり、私は兄の家に向かった。

千波ちゃんには、今は便利なレンタル業者があるからと教えてもらい、

そのパンフレットなどを集めてもらう。


「とりあえず、ベッドはあった方がいいよ。ベビーバスもあった方がいいし……」


先輩からの意見を、素直に聞く私。


「なんだか迷惑かけるよね、千波ちゃんに」

「また、そういうことを言う。奏樹もそうしろって言っているのだから、
気にしなくていいんだって」


食べ物がおいしく感じられた秋の頃、兄夫婦に言われ、

あらためて自分のマンションが独身用だったことに気づき、

不動産会社に問い合わせたところ、やはり赤ちゃんが一緒に住むのはと、

契約にはないことを指摘されてしまった。

確かに、夜中に泣いてしまうこともあるだろうし、縁のない人たちに、

迷惑だという理由も納得できた。

そこから慌てて啓太に連絡を取り、東京に戻ってからの部屋探しを開始する。

休みを合わせ、不動産屋をめぐり、手頃な部屋を見つけることも出来たのだが、

啓太が戻る前に本格的な引っ越しをするのは難しく、

それなら、新潟の実家で子供を産むべきかとも考えたが、

予定日が1月という寒さの厳しいときだけに、

いざというとき、病院なども行きづらくなるのではないかという結論に至った。

結局、私は出産した後、しばらく兄夫婦のマンションにお世話になることが決まる。


「契約は済ませたの?」

「そうなの。前の住人さんが年末で出て行ったでしょう。それからクリーニングとかして、2月からならちょうどいいって、不動産の担当者にも言われた。これが3月になると、
一気に物件が減ってしまうからって」

「あ、そうだろうね」

「2月になったら、啓太も東京に1週間くらい戻れるらしいから。
その時にでも、なんとか荷物を運んで……」

「うん……」


兄夫婦のマンションは、広さのある2LDK。その1つを貸してもらい、

予定日近くになったら、母が出てきてくれることになっている。


「和貴が楽しみに待っているのよ。幼稚園の先生からも言われたもの」


兄の息子、和貴。

今は幼稚園にもすっかり慣れ、秋の運動会では1等賞を取った。


「千波ちゃんが新潟に言ってくれて、それでお父さんの態度も変わったの。
お母さんが来てくれて、私、つわりの大変さから抜けられたもの」


そう、あの出来事がなかったら、父は気持ちの表現方法がわからないまま、

私たちに冷たい態度を取っていたかもしれない。


「部屋のことから、居候のことから、啓太も東京に戻ってきたら、
あらためてお礼をって言っていたから」


私は本当に、本心から頭を下げる。


「もう辞めてよ。あのね、奏樹の妹だからというよりも、私自身、
本当に未央ちゃんが大好きなの。だから何かをしてあげたくなるだけ。
私のことも慕ってくれて、義理だとか関係なく頼ってくれて。
本当にただそれだけなんだから」


千波ちゃんは、私のほおに触れ、軽く手を動かす。


「これからも、頼って」


私は千波ちゃんの気持ちが本当に嬉しくて、笑顔と一緒に涙も出そうになる。

妊婦になってから、そう、涙腺が緩みっぱなし。

感動する映画には、素直に泣けてしまうし、

時には犬が一生懸命に散歩をしている姿を見ただけで、

『じんわり』と涙が浮かんでしまった。

それを啓太に話したら、『年のせいではないか』と言われ、

思い切り背中を叩いてやったけれど。





「明日来てくれるって」

『そうか、いよいよ予定日近くなったしな』


慌ただしい日々を過ごし、そして、私の予定日が近づいてきた。

実際、いつ陣痛が始まるのかわからないため、昨日診察を終えた後、

先生に確認したら、ほぼ予定通りではないかと言われる。


『まぁ、お母さんがいてくれたら、安心だけど』

「うん。話が動いたらちゃんと連絡するから。心配しないで仕事をしてよ」

『うん……』


すぐにわかる、啓太の『どこか上の空』返事。


「このタイミングで仕事の失敗したら、ずっと言われるからね、気をつけてよ」

『そう、何度も同じようなことを言うな。言い返したくなるだろ』


啓太との電話は、それからも数分間続くことになった。



36-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

35 【ハイ・ハット】

★カクテル言葉は『思いやり』

材料はブランデー 1/2、グレープフルーツジュース 1/2、シュガーシロップ 1/2tsp





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Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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