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ももんたの発芽室

ももんたのつぶやきや、つたないですが、創作を掲載しています。
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36 永遠の感謝 【カリフォルニア・レモネード】 ①

36 永遠の感謝

36-①


新潟から母が来てくれて数日後、実際の予定日よりも少し早めに、

私の『陣痛』が始まった。打ち付けられたような痛みと、

穏やかな時間が交互に現れ、その感覚が少しずつ狭まってくる。

何度かその痛みを経験しているうちに、じわりと痛くなりはじめると、

自然と体が身構えて固くなる。

全身の力で、どうにかこなそうとしていると、波がひいていくように、

痛みはどこかに消えてしまった。


もうすぐ、私たちの赤ちゃんに会うことが出来る。


診察をした医師から、何度も『性別』を教えましょうかと言われたが、

黙っていて欲しいと約束し、ここまで来た。

いつもの医師が出張で留守だと言われた時、初めて診察してくれた医師には、

『性別のことは絶対に言わないで』と、こちらから念押しした。

兄には、聞いておけば色々とものを買うものも楽だし、名前も考えておけると、

『合理性』をアピールされたが、私は断固として首を振り、

『疑問符』を、あえて持ち続けてきたのだから。


女の子だったら、男の子だったら……


当たり前だけれど、生まれてくるのは一人しかいない。

だから、どちらかしか可能性はないけれど、

生まれるまではどういう想像も成り立ってくれる。

女の子ならスカートを手作りしてあげてもいいし、

男の子ならキャップ帽を家族そろってつけてもいい。

私は母とタクシーに乗り込み、何度も襲う痛みに耐えながら、

楽しいことを精一杯考え続けた。



カーテンの隙間から見えるのは、今日が終わったのだとわかる闇の色。

楽しい想像がだんだん出来なくなると、ただ、息を吐き出し、吸い込み、

もう、医者の言うとおりにするしかなくなってくる。


いったい今、何時だろう。


壁にかかる時計を見ると、夜中の3時過ぎだというのがわかった。

タクシーで病院に到着し、すぐに分娩室かと思ったのに、そこからが長い。

それでも、始まってしまった限り、きちんと終わりを迎えないとならないのだから、

今は、言われたとおりにして、少しでも楽になろうと自分自身が反応する。

肩の横にいる看護師が、力を抜くようにと何度も言ってくるけれど、

抜いているつもりなのに、なぜか反対の方向へ動いてしまっていて、

自分ではどうすることも出来なくなっていた。


「岡野さん、もうすぐですよ。赤ちゃんも頑張っていますから」

「……はい」


看護師さん。その励まし、病院に入ってから何度目ですか。

『もうすぐ』という抽象的に思える時の扱いが、痛みのせいで、

妙な怒りに発展しそうになる。

あぁ、もう、この子、絶対に啓太に似ている。

だって、私に似ているのなら、せっかちになるはずだから、

外へ出ようと決めたら、どんどん出て行く方向へ動こうとするはず。

でも、啓太は本当にマイペースだから、人が何を言っても、自分が納得しなければ、

ずっと動かなくても平気というくらい、動かない。

私の大変さなど、おかまいなしに。



「はい、肩の仕方を抜いて……はい、いきんでみて」


私は言われるままにしながら、必死に呼吸を繰り返す。

人生の中で考えたら、一瞬以下とも言えるくらい短い時だっただろうが、

産声を聞けたときには、軽く意識が遠のくくらいの、大仕事だった。

『おめでとうございます』とか、『かわいい女の子ですよ』とか、

看護師たちの声が聞こえてくる。


そうか、女の子だったんだ。

名前、どうしよう……


私はありがとうございますと返事をして、しばらくその場に座っていたが、

廊下に待っていた母が入ってきてくれて、手を握ったことがわかり、

初めて『母』になった思いが、わき上がってきた。

体が疲れたと言うより、張り詰めていた心が解放されたからなのか、

赤ちゃんと初対面を終え、病室に戻ると、一気に眠気が襲ってくる。





『……ちゃん』



どこかから聞こえる、かわいい声。

ほおに触れるのは……


「あ、ほら、和貴」

「みおちゃん、あ、起きた」


和貴……


「未央ちゃんごめんね、眠っていたのに。もう、和貴ったら」


そうか、あの指の感覚と、かわいらしい声は和貴だった。

千波ちゃんの申し訳なさそうな顔に、大丈夫だよとわかるように首を振る。


「カズ……幼稚園は」

「幼稚園は、みおちゃんのあかちゃんに会うから、早く帰ってきた」


和貴の横には千波ちゃん、そして、今朝も手を握り合った母がいて。



啓太は……



あ、そうだった。今頃『大阪』だっけ。


「啓太さんの携帯には、生まれてからすぐに連絡を入れたからね」

「ありがとう」


啓太は今日の担当を早あがりにさせてもらい、どうにか東京へ来ると、

少し前に連絡があったことも教えてもらう。


「今……何時?」

「もうすぐ2時……かな」

「エ? あ、そうなんだ。だからか」



お腹……すいた。



「みおちゃん、はい」


和貴はポケットの中から、小さな飴を取り出し、私に差し出してくれた。


「どうしたの、カズ、これ」

「これ、僕が電車の中でママからもらったんだよ。みおちゃんにあげようと思って、
ここに入れてきた」


和貴はポケットをポンポンと叩く。


「甘くてね……おいしいよ」


小さな和貴の手が、飴の包み紙をほどいてくれる。


「未央ちゃん、お昼のサンドイッチあるから、食べる?」

「うん……でも……」


先にこっち。

私が口を開けると、和貴が飴をぽんと落としてくれた。

ゆっくり舌の上で、味わってみる。


「ありがとう……カズ、とってもおいしいよ、甘くて」

「そうだよね」


私はゆっくり体を起こす。


「カズ、赤ちゃん見てくれた?」

「うん……あのね、おばあちゃんが、お猿さんみたいって……」


和貴のストレートな台詞に、千波ちゃんが慌てて『赤ちゃんはみんなそうなのだ』と、

フォローしてくれる。


「和貴だって、同じだよ。真っ赤っかだったの」

「……違うよ、僕はお猿さんじゃない」


自分は戦隊ヒーローのようにかっこいいのだと胸を張る和貴を見ながら、

私も母も、その通りだと頷いていく。

千波ちゃんは、大きな声を出す和貴の口の前に指を置き、『静かにする』と、

少し怖い顔をしてみせた。



36-②




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Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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