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ももんたの発芽室

ももんたのつぶやきや、つたないですが、創作を掲載しています。
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36 永遠の感謝 【カリフォルニア・レモネード】 ②


36-②


啓太が病院に来てくれたのは、夕食が終了する少し前で、

思っていたよりも早い登場に、私も母も驚かされる。


「午前中で変わってくれることになってさ、慌ててこっちへ」

「よかったの? 仕事」

「うん……とにかく会いに行けって、みなさんそう言ってくれたから」


啓太は母に色々とすみませんと頭を下げる。


「いいんですよ、娘のことですから。大変さよりも何倍も嬉しくて。
ねぇ、見に行ってきて」

「あ、そうそう、行こう、啓太」


夕方くらいまでは、けだるさもあったが、夕食を食べてしっかりしたからなのか、

私の足取りも軽くなる。『新生児室』に向かう間、初めて授乳させたこと、

小さすぎて抱くのも怖かったことなどを話すと、啓太は黙ったまま頷いた。


「この時間は、もう無理だな。
もう少し早く来られたら、抱っこさせてもらえたけど」

「そっか……」


啓太は、今日はこっちに泊まって、明日中に大阪へ戻ればいいと教えてくれる。

私は、それならば母と一緒に、私のマンションに戻って、

明日また来ればいいと、そう話す。


「うん……」


啓太の目、

赤ちゃんを見つめたまま、動くことがなくて……


「嬉しい?」

「うん……」

「そう……よかった」


そんなこと、聞かなくてもわかっていたけれど、でも、聞いてみた。

笑い声などなかった、幼い頃の啓太の家族。

自分の未来など、何を求めたらいいのかもわからなかった不安な日々が、

これからは変わっていくだろう。


「女の子か」

「そうよ。おそらく性格は啓太に似ている」

「俺? どうして」

「だって、陣痛が来てから、
看護師さんが『あ、もうすぐですね』って台詞を何度も言うのに、全然進まなくて」


子宮口が開くとか、陣痛の間隔がとか、そのたびに『もうすぐ』と励まされたが、

言葉が違うと反論したくなるほど、長い長い時間だった。


「周りのことなんて気にしないで、マイペースなんだもの。
分娩台に乗りながら、絶対に啓太似だって確信した」


私に似ているのなら、せっかちに出てくるはずだからと説明を付け加えると、

確かにそうかもなと、啓太は笑ってくれる。


「未央……」

「何?」

「ありがとう」


『感謝の言葉』

どこのご夫婦も、生命の神秘を前に、こんな台詞をかけあうのだろうか。


「私こそ、啓太に感謝しているからね」


嘘でもお世辞でもない、本当の本音。

啓太と積み重ねる1日の時間が、こうして新しい命を与えてくれた。

私たちの視線に気づいたのだろうか、赤ちゃんが一瞬ピクンと動く。


「何か夢でも見ているのかな」

「そうだね……」


消灯時間が近づき、啓太は母と一緒に病院を出て行くことになる。

すっかり静かになった病室で、私は昼間に寝てしまったからなのか、

夜になってもなかなか寝付けなかった。

それでも、気持ちは満たされていたから、

自然と眠れるまで、ずっとカーテンの隙間から見える月を眺め、

和貴が歌っていた童謡を、頭の中で繰り返していた。





「しっかり……」

「あぁ……」


次の日、あらためて啓太は病院に来ると、初めて我が子を腕に抱いてくれた。

私はたった1日、親として先輩になる。

昨日の経験があったので、少し抱き方にも余裕が出た。


「2月の引っ越しには、5日休みをもらえているから」

「うん……」


去年、啓太の『大阪』出向が決まってから、本当に慌ただしい1年だった。

色々な出来事があって、あらためて気持ちを寄せ合えたのに、

遠距離恋愛になることが不安で、少し戸惑いもあったけれど、

その後、すぐに妊娠がわかって……。


最上級のサプライズに、離れていることに対して、

愚痴を言う時間も環境もなくなってしまった。

『子供は望まない』と、互いに気持ちを整理し、二人で生きていくことに、

喜びを見つけていくつもりだったが、『奇跡』という神様が、

私たちのところに降りてきてくれたのだ。


「……なぁ、寝ていないか」

「そう、一生懸命に口を動かしていて、そのまま寝ちゃうの。でも……」


それなら授乳は終わりにしようかと私が少し動くと、

すぐに思い出したのか、また口が動き始める。


「食いしん坊なところは、未央似だぞ」


啓太はそういうと、赤ちゃんのほっぺに、自分の顔を近づける。


「あ……」

「何だよ」

「啓太、なめないでよ」


そうだった。ひとみが言っていたっけ。

男の人は、すぐに赤ちゃんをかわいがりながら、なめてしまうと。


「生まれてばっかりで、まだまだ未熟なの。ばい菌、つけないでね」


私は啓太の口からかばうように、体を少し動かした。

『ばい菌』発言を聞いた母は、何を言っているのと、あきれた顔をする。


「ひとみが言っていたの。男の人はすぐになめようとするからって」


啓太はそんなことはしないよと言い返し、まだ返事が出来ない娘に向かって、

『なぁ』と言葉をかけていた。



36-③




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Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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