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ももんたの発芽室

ももんたのつぶやきや、つたないですが、創作を掲載しています。
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36 永遠の感謝 【カリフォルニア・レモネード】 ④


36-③


「そうか、それじゃ、慌ただしかったな」

「そうなの。莉子が寝たかなと思うと、沙織ちゃんがぐずり出したり、
しばらくは昼寝の時間にでも、電話で話した方が気楽かもって」


その日の仕事を終え、戻ってきた啓太に今日の様子を話す。

すると、啓太は『コレック』でも、時々お母さんたちが会合を開いているけれど、

あやしながら、何か食べさせながらで、落ち着かなく見えると、話してくれる。


「でもね、夜泣きがあまりないって言ったら、優秀だって褒められた。
沙織ちゃんはなかなかだったらしくて」

「あぁ、そういえば莉子はあまり夜に泣かないね」


啓太は日本酒のグラスに口をつけながら、ベッドに眠る莉子を見る。


「うん。この3ヶ月検診の時にも、
他のお母さんにうらやましいですって言われたくらいだから」


子供を育てるのが初めてなので、莉子がどれくらいうらやましがられる子なのか、

その基準がわからないけれど。


「なぁ、未央。先週の健康診断の結果」

「うん……」

「特に気になるようなところはないみたいだ」

「そう……」


『コレック』では、毎年5月に社員の健康診断を行っていた。

といっても、今までの啓太は、病気のこともあり、それを避け続けていたらしく、

入社してから、初めて受けるので、要領がわからないと首を傾げていたことを思い出す。

啓太の治療は5年経過を迎えていることもわかっているが、『健康診断』と聞くと、

やはり結果を知るまでは、緊張する。


「未央と未来を作ると決めてから、きちんと医師に今までのことも話した」

「うん……」


それは、啓太本人も同じだった。

人生なんてどうでもいいと、そっぽを向いていたときとは違い、

向かい合ってくれている証拠だけれど。


「健康診断、毎年同じ病院で検査をするらしくて。
偶然、その先生が以前、『東陵病院』にいた人だって聞いたから、
自然と『放射線治療』のことも話が出来た」

「うん……」

「莉子が生まれたことを話したら、それは運がいいって、そう言われたよ」


見えない治療だけに、その先はわからないことが多く、

確率までは予想が出来ない。

啓太はもっと、色々と言いたかったのかもしれないけれど、そこから言葉が出なかった。

私も続きを求めることなどなく、ただ、眠っている我が子を見つめてしまう。

啓太と出会い、そして今があること、

ひとみと話したように、たまには楽をしたいと思わないわけではないけれど、

買い物に行くスーパーでも、よくこんな言葉をかけてもらう。



『大変だけれど、今が一番楽しいわよ』



そう……

私は今、楽しい時間を過ごしている。

何にも変えることが出来ないくらい、貴重な時を……


「風呂に入ってくる」

「うん」


啓太が立ち上がった後、私はグラスを2つ、流しに片付けた。



編集部に近い『オアシス』と呼んでいたマンションで、

互いに体を重ね合ったベッド。

この場所で抱きしめ合うときだけは、母ではない思いを見せたくなる。


「未央……」


名前を呼ばれるだけで、私は受け入れてもらえている悦びに浸ることが出来た。

私の素肌に触れる、啓太の指。

少しずつ速まる鼓動と息づかいに、この先が少しずつ予想できる。

この瞬間よりももっと満たされるその時を感じたくて、

私の口から、自然と吐息が出て行ってしまう。


「啓太……」


言葉で言わなくても、何をして欲しいのか、あなたにならわかるはず。

さまよっていた啓太の唇が、わかったという返事の代わりに、私の元へ戻る。

体を重ねながら、この夜に漂う私は、今、母ではない自分を解放していく。

自由に息を吐き、もっとそばにいたくて啓太と手をからめ、

時に感覚だけに集中したくて目を閉じる。

『また明日を一緒に迎えよう』という、そんなささやきが、

どこからか届く気がして、私は体を震わせながら、啓太の背中をつかんでいた。





莉子も成長し、6ヶ月検診を終えた後、私は『保育園』探しを開始した。

とりあえず、職場の産休終了には、あと数ヶ月の猶予があるが、

世の中は働く女性になかなか厳しい。

ポジションを開けていると約束してくれた、編集部の皆さんのためにも、

なんとかと思うのだが、役所に話をしても、キャンセル待ちが多いと言われるだけで、

なかなか先には進まない。

そんな話を、兄嫁の千波ちゃんは、しっかり頷きながら聞いてくれた。

今日は同じ東京に住む中谷家に、岡野家の私たちが招待を受ける。

話題の中心は、啓太と莉子が中谷家に入ったことをお祝いし、

両親が全員でどこかに旅行をしたいと言い始めたからだ。


「親父はさ、新潟に来て欲しいみたいなんだけど、まぁ、これから季節が冬に向かうだろ。
まだ莉子が小さいから、暖かいところの方がいいだろうって、伊豆とか、
思い切って九州とかさ」


兄は、費用を出してくれる気持ちになっているのだから、

ここは甘えた方がいいと、莉子を抱いて座っている啓太に話しかける。


「いいですかね、それで」


大人の数だけでも6人になると、啓太は心配そうな顔をする。


「いいの、いいの。なぁ、千波」

「いいって、奏樹が言うことじゃないでしょう。
でも、この間ね、お母さんが電話で話していたのよ。
お父さん、啓太さんがお酒が強いのが気に入っているんだって。
一緒に飲んでくれるから楽しい、楽しいって、そう話していたみたい」


千波ちゃんの言葉に、兄は『俺は飲めない母親に似ているんだ』と言い返す。


「俺より未央の方が飲めるからね、こいつは親父に似ているんだよ。
頑固なところとかさ」


兄は、意地を張りだしたら何日でも妥協しないと私の悪口を啓太に話す。


「昔もなぁ……ちょっと財布からお小遣い借りたらさ、
まぁ、返すまで張り紙を部屋の前につけ続けてさぁ……」

「お財布から借りてって、それ泥棒っていうの」


兄と私のやりとりを聞きながら、啓太は莉子が寝てしまったので、

奥に用意してもらった座布団の上に寝かせてくれる。

最初の数ヶ月は、寝かしつけに何度も失敗していたけれど、

さすがに啓太も、上手になった。


「啓太おじちゃん」

「ん?」

「莉子に僕の大きなタオル、貸してあげるからね」


和貴はそういうと、莉子にキャラクターの描かれたタオルをかけてくれる。


「あ、やだ和貴。そんないつも使っているのではないのがあるでしょう」

「いいの、いいの。これで!」


和貴が千波ちゃんのところに向かい、その動きを阻止しようとする。


「千波ちゃん、カズの言うとおりでいいって」

「そうですよ、これで十分です」


莉子は気持ちよさそうに眠りだし、和貴はそこに寝転ぶようにしながら、

じっと寝顔を見続ける。


「和貴、触ったりしたらだめよ、起きちゃうから」

「しないよ、見ているだけ」


私と千波ちゃんは料理を運び、あらためて大人だけの乾杯となる。

授乳中の私は、和貴と一緒に、オレンジジュースをもらうことにした。



36-⑤




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Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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